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池上正樹×斎藤環が語る、「働けないなら、水商売に行けばいい~ひきもる人々に降りかかる貧困ビジネス~」

ジャーナリスト池上正樹×精神科医斎藤環対談(2/3)

池上 岐阜県でも、80代の母親と、40代の娘さんが餓死の状態で見つかったというニュースがありました。

斎藤 そういうケースも増えると思います。餓死ケースはこれまでもちらほらありましたけど。なぜか孤独死じゃなくて2人組が多いですよね。

池上 そうですね。餓死の事例はよく、親子や兄弟姉妹といった2人組で見つかります。他にも、家族が転居して行った家を解体したら、ミイラ化した遺体が出てきて、実はひきこもっていた40歳代の当事者だったとか、そういうケースがこれからますます増えそうです。

斎藤 高齢者問題も、ひきこもり問題も、国が彼らのケアの責任を家族に押しつけてきたツケが、そういうかたちでまわってくるんだろうと思いますね。

 ひきこもりの問題が出始めた当初は、楽観論が多かった。今からだと信じられませんけど、ひきこもりというのは病気じゃないのでほっとけばなんとかなりますよと、専門家すら言っていた時代があったわけです。最近は高齢化が進んでしまって、ほっといてもなんともならないっていうのがはっきりしたからそういう人もいませんけど。

 一部の親はそれを信じちゃったと思うんですよね。やっぱり藁にもすがりたいときは、偉い評論家がそう言っているから、まあほっときましょうかという人も相当数いたと思います。たぶんそういう人たちの多くは、今でもひきこもっている息子や娘を抱えているという状況がある。

池上 不登校対策もそうですが、ケースが違うのに、放っておけばいいとか、いや、介入して外に連れ出さなきゃいけないとか、どうしても極端な話になります。1人1人、求めていることも、社会に出られない障壁も、それぞれ違います。明らかに妄想や幻聴などの兆候があるときは、医療機関につなげなければいけません。一方で、周囲は、本人たちと一緒になって、これからの人生を考えていくという丁寧な対応が必要です。

◆求められる支援の多様性

池上 自力で頑張る方もいます。極端な話ですが、男性であれば、家出同然に親元を飛び出したとしても、ホームレスとして生活を再スタートさせる人もいるし、住み込みの仕事なども見つけやすいと思います。でも女性が、家を出て自立したいと思ったとき、一時的に宿泊できるような“居場所”がほとんどない。

 もちろん金銭的に余裕がある場合、費用をかければあるかもしれませんし、精神疾患や発達障害といった診断を前提に利用できる医療モデルのグループホームやシェアハウス、デイケアなどはあります。しかし、お金のない女性たちから相談を受けて、私も一緒に探してみると、セーフティーネットがほとんどないために、多くの人は、第一歩を踏み出せないというのが現実です。女性専用といった配慮もまだまだ少なく、安心して利用しにくいという背景もあります。

 

斎藤 やっぱりデイケアとかは男性が多くなりますよね。男性が多いので女性が居つかない。悪循環で、ますます男性が増えるだけということになります。それならばと、女性限定自助グループを作ろうというのが過去にありました。ところがですね、実は女性だけというのは難しい理由がふたつある。ひとつは想像がつくと思いますけれど、女性同士の派閥争いとか、グルーピングが生じてしまう。

 ふたつ目は、男女半々くらいだと、カップリングが起こる。ひきこもりもカップルになると元気になるので、どんどん卒業してしまい、今度は参加者が激減します。結局空中分解してしまい、ほどよく均等の状態で維持するというのは非常に難しい。

 また、ひきこもりの自助グループが、他の自助グループと違うところは、僕の知る限り、卒業した人がスタッフとして残るというのがあまり起こりにくいという点です。卒業した人は、自分がひきこもっていた事実を黒歴史にしてしまい、グループに参加していたこともなかったかのように縁を切ってしまうことが結構ある。他方、摂食障害や依存症のグループだと、リカバリーした人がスタッフとして支援の側にまわるということがよくあります。もちろん、元ひきこもり当事者がスタッフをやっている就労支援とか、ピアがやっている自助グループもありますから、皆無ではないですが。このあたりが、安定してグループを維持するのが難しい原因ではと思います。

 ではどういう状況が安定するかというと、高齢者グループのケースなどでいうと、女性だけの集団で男性が1人いるといいと聞きます。スタッフが男性で、誰とも距離を縮めないかたちでかかわっていって、メンバーのかかわりを円滑化するようなグループがあればいいのではと思います。まあでも実現には程遠いわけですけれどね。

池上 自助グループが男性主体で構築されてきたことや、卒業した人たちが過去を黒歴史にしてしまうという話、よく聞きます。「ひきこもり」と呼ばれる状態って難しいですよね。いろんな背景の人たちがいて、みんなそれぞれまったく状況が違うから、何か1つのものを皆でつくろうとしても、なかなかうまくいかない。同じように社会との関わりが途絶えている人たちの間でも、対極の人たちがいるので、合う、合わないは、実際にその会に行ってみないとわからない、というところがあります。事前の情報を収集する必要もあるかも知れませんが、相性が相当大きく左右するのではないでしょうか。

 どういう人たちが主流なのかによっても違ってきます。極端なケースでは、発達障害や精神疾患などを抱えた人たちが主体でやっているところと、社会でのストレスがきっかけでひきこもってきた人たちが運営しているグループでは、まったく違ってくるということもあります。

斎藤 男性にはひきこもり向けのフットサルチームとかありますよね。女性も入っていいのですが、やっぱり身体能力に差があったりして、男性主体になりやすい。何か、女性がひきこもり支援以外の目的で集まれるような口実があって、そういうサークル活動的なものを通じて交流できればと思うんですけど、なかなか難しいという状況ですね。

池上 通えるような会、デイケアだけではなくて、一時的に親元から離れるための宿泊機能のある居場所もほしいですね。

斎藤 グループホームやシェアハウスみたいなところですか。

池上 現在のところ、グループホームはどうしても医療前提に限定されてしまいます。なので、一般的に広がっているシェアハウスなどで、ひきこもってきた人たちでも自立に向けた生活ができるような理解のあるところが増えていって、そこで女性が安心していられるような場所が増えればいいなと思います。いわゆる社会的ひきこもりに特化したような感じのものです。

斎藤 ただし、ひきこもり問題がでてきた当時から、ひきこもりはどっか島にまとめて一緒に住まわせればいいとか、集合住宅を作って、ひきこもりアパートを作ればいいとか、そういう意見がさかんに言われました。でも、括りが「ひきこもり」というだけで当事者は反発するんですよ。そんな場所には行きたくない、一括りにされたくないという抵抗感が生じてしまいがちで、できれば「ひきこもり」という言葉を使わずにやれるといいのですが。

池上 別の表現がいいかもしれませんね、生きづらさとか。

斎藤 そういうものがいいかもしれません。

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