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池上正樹×斎藤環が語る、「働けないなら、水商売に行けばいい~ひきもる人々に降りかかる貧困ビジネス~」

ジャーナリスト池上正樹×精神科医斎藤環対談(2/3)

 前回は、長年「ひきこもり」問題を追いかけてきたジャーナリストの池上正樹氏と、精神科医の斎藤環氏に「ひきこもり」界隈において女性が男性とくらべてなかなかスポットがあたってこなかった背景や、日本社会の根強く残る因習について語っていただきました。
 そのうえで、現在行われている「ひきこもり」をめぐる支援の脆弱性や、そこから派生して問題となっている社会問題について指摘していただきます。

◆支援現場で起きている「ひきこもり」からの貧困ビジネス

 

池上 最近、生活困窮者自立支援法の相談窓口ができました。そこに女性のひきこもり当事者が相談に行き、生活保護受給の相談をしたりすると、「水商売に行けばいい」などと説教されることもあると聞いています。

斎藤 相談員から、ですか。

池上 そうです、複数の方から聞いています。

斎藤 生活保護の現場の公務員について私は全然信用できる気がしない。昨年も、榎本クリニック事件というのがありました。このクリニックは大田区、江戸川区、港区の職員と結託して、貧困ビジネスを展開しているんです。当事者は、真っ先に集合住宅系の安アパートを紹介され、さらに信じられないことに生活保護費はクリニックに払う。クリニックのデイケアに通ってきたら、そこで現金を渡すという、ものすごい搾取構造があった。ほとんど組織犯罪です。

池上 セクシュアル・マイノリティの人でも、相談に行ったら、生活保護をすすめられたという人がいます。支援団体が自治体から委託を受けている、とある厚労省事業の地域若者サポートステーションなのですが、生活保護を受給するようにさかんにすすめられたそうで、「お小遣いをあげるから、この指定した寮に住みなさい」と言われたそうです。

斎藤 お小遣い、ね。

池上 貧困ビジネスです。

斎藤 千葉県でも生活保護を申請したら、この住宅に住まわなきゃダメと言われるという話があってですね。当事者が私のところに困ったと言って来たので、私のほうから生保受給者はどこに住んでもいいと保証されているはずだからそんなのおかしいということを言いました。さらに診断書を作って、「集合住宅所には住めない人です」と書きました。そこまでして、やっと自分の選んだアパートに入居できた。

池上 このような直接的な貧困ビジネス以外にも、相談を受けられる公的な機関では、窓口の担当者の資質の問題というのも実はありますよね。あらかじめ設定されたメニューを上から目線で押し付けるだけだったり、マニュアルをただ読むだけだったり、連携している支援機関などを紹介するだけだったりで、役に立たなかったという話をよく聞きます。

 制度はあっても、形だけで中身がないという感じで、当事者がやっと勇気を出して相談しに行った先で、また傷つけられて、ひきこもるということも結構起きています。最近は、役所の担当者が2年くらいで異動してしまうことも背景にあるのかもしれません。

◆これから起こる、悲劇の数々

斎藤 現在のひきこもりの平均年齢は34歳ですけど、私がいわゆる第一世代と呼んでいる、私と同年代、上限50代半ばまでのひきこもり当事者がいます。彼らはあと10年後に65歳になり、年金も請求できる権利を持っている。なぜかというと親御さんが保険料を払っているから。そういう第一世代がおそらく、少なめに見積もっても数万人は存在すると考えられます。

 この人たちが年金を請求し始めたら、絶対バッシングが起こると思います。なぜなら、保険料は払っているが所得税は払っていない。年金の財源の半分は所得税ですから、フリーライダーと思われちゃうわけですよね。「あいつらただ乗りしやがって」、「自己責任とれ」と言い出す奴が絶対出てくる。そうなる前に、なんらかの対策を立てるしかない。

池上 確かに、その事態は迫っていますね。どう乗り切るか……。

斎藤 日本にまだ足りないのは、いわゆる中間労働市場です。障害を抱えた人には福祉作業所があって、問題が無い人には一般就労があって、その中間がなかなか膨らんでこない。中間というのは、障害とは言えないまでもハンデがある、あるいはブランクがあるという層ですね。ブランクがあるからすぐに一般就労は無理だけれども、時間をかけてトレーニングして慣らしていけば一般就労できる人が潜在的にいっぱいいるわけです。ひきこもりがまさにそれです。

 彼らのスキルは問題ないのですが、体力不足とか対人関係の経験がないとか、いろんなものが不足していて、すぐに戦力にはなりえないわけですよね。そういう人を、気長に育てて、一般就労に結び付けるというルートはもっと太くしてほしい。そこを太くしないと、実は私は半ばあきらめていますけど、10年後にはさっき言ったことが起こり始める。

 別の視点からいうと、もし彼らが全員支給を求めたら、財源は簡単につぶれてしまうだろうと。ただおそらく彼らの半分以上は請求しない可能性がある。請求しないで、孤独死なんかを選んでしまう可能性もある。それはそれでもう、また別の悲劇ですよね。大量死が起こるわけですから、

 どっちに転んでも非常にまずい状況が、目前に迫っているわけです。オリンピックに浮かれるのもいいですが、その後に確実にやってくるひどい状況をなんとかしようと思ったら、本当に短期的で具体的で実現可能性が高い手法は就労支援しかない、と私は思っています。

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