「20万円くらいならすぐ払えるので、エッチさせてくれませんか?」突然送られてきたDMに私は…【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第14回
【ネット上にはびこる怪物たちのセカンドレイプ】
日々色んなメッセージが届く。私のファンが送ってくれるものは言葉を慎重に選んで、その言葉の端々から尊敬や愛情が伝わってくる。私もそれは励みになるし、感謝している。しかしながらそういった内容は僅かで、大半は怪しい勧誘か侮蔑な内容のものである。正直言って、多く届くから慣れているわけではない。私は心ある人間なので、ごく当たり前に傷つく。しかし皆がそれを忘れて、何も考えを巡らせずに、平気で相手の尊厳を傷つけるような言葉を送ってくるのだ。そういう人間を私はある意味人間だとは思っていない。ただの理性のない怪物である。
こんな話を発信すると、「そういうやつは無視するに限るよ」とか「まあ、AV女優だったし、しょうがないよ。気にしないでおこう」と声をかけてくる人たちが存在する。なぜ私が咎められないといけないのか。なぜ私が怒ったり、悲しんだりしてはいけなくて、無視しろというのだろうか。誰も一緒にその相手を怒ってはくれないのだ。お前は同じことをやられて、自分で想像がつかないなら自分の大事な人が同じ目に遭遇したとしても、へらへらと笑っていられるのか。私をしっかりと見て、答えてほしい。
しかしながら、以前よりも世の中の空気感は少しずつ変わってきている気がしている。私の周りの人間たちは誰一人として「気にするな」と言わず、同じように怒り、または嫌悪感を露わにしてくれた。
それは私の周囲だけではなくて、ネット上でもそういう風潮は強くなってきている。「こんなことをされて嫌だった」と被害者が声をあげ、それに連帯する形で声が大きくなり、多くの人々を取り込み、議論を巻き起こす。そもそも声をあげること自体に勇気が必要なうえに、ネット上にはびこる怪物たちはセカンドレイプを平気で行ってくるので、さらに傷つく可能性は大きい。一度声をあげたらずっと戦い続けなくてはいけない。これらは賽の河原で石を積むような作業に思えてしまうが、こうやって繰り返すことでしか、性加害に甘い社会は変えられないのだ。
KEYWORDS:
✴︎KKベストセラーズ 新刊発売決定✴︎
神野藍 著『私をほどく〜 AV女優「渡辺まお」回顧録〜』
が6月17日に発売決定・予約開始!
✴︎
「元エリートAV女優のリアルを綴った
とても貴重な、心強い書き手の登場です!」
作家・鈴木涼美さんも絶賛した衝撃エッセイが誕生
✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに