「これはタオル代だ。受け取っておいてくれ」田中角栄の“人たらし術” |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「これはタオル代だ。受け取っておいてくれ」田中角栄の“人たらし術”

【連載】「あの名言の裏側」 第3回 田中角栄編(2/4)圧倒的な人身掌握術

 田中氏と官僚の関係にまつわるエピソードには、次のようなものもあります。
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 角栄は夏場、課長以上の役職者を一人ずつ大臣室に呼び入れると、
 「こんな暑いときに夜遅くまでご苦労さん。これは俺のほんの気持ちだ。タオルでも買って涼んでくれ」
 といって封筒を渡す。
 封筒の中をのぞくと、現金が入っている。それも三十万円──現在の貨幣価値に換算すれば百万円以上だ。
(向谷匡史『田中角栄 相手の心をつかむ「人たらし」金銭哲学』より)
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 官僚は驚き、「これ、もらったらヤバイお金なのでは……」と心配して、ためらいます。これがもし発覚したら、自分は猛烈にバッシングを受けて、仕事を失ってしまうかもしれない……そう考えるのも当然のことでしょう。ただ、田中氏はこう畳み掛けるのです。
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「心配するな。これはすべて俺のカネだ。それに、キミたちはカネを配ったところで影響を受けるような男たちじゃないだろう。タオル代だから遠慮なく受け取ってくれ。感謝の気持ちだ」
(同上)
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 出どころは公費などではなく、あくまでも自分のポケットマネーだから危ないものじゃない。そもそも、キミがカネで懐柔されるような人間じゃないことはよく知っている。だから、気にせず受け取れ──そう言われて、それでも封筒を突き返せる人は、なかなかいないのではないでしょうか。見方によっては、人の欲望やプライドを上手にくすぐりながら、確実に自分の手のひらの上にのせるような狡猾さを感じないわけではありません。でも、巧みです。「お見事!」と思わず膝を打ってしまいたくもなります。

 もし、田中氏が自分の上司だったら? ちょっと想像してみてください。キャラクターが強烈で、多少強引なところもあるけど、こんなに頼りがいがあり、尽くしがいがある人はいないかもしれません。
 取引先や会社の上層部に対しての外面はいいが、面倒ごとは何でも下に押し付け、トラブルが起きても叱責するばかりでろくに責任も取らず、まずは自己保身が先立つ。自分の考えが常に正しいという姿勢を崩さず、下の人間の話にはろくに耳も傾けない。そんな上司に翻弄され、日々苦しめられているビジネスパーソンも少なくないと聞きます。
 ダーティーな印象がつきまとう田中氏ではありますが、「仮に、自分が田中氏と一緒に仕事をすることになったら」と考えてみると、どこか憎めない。いやむしろ、こういう人と仕事がしてみたい……そう思えてきませんか? 
 近年、田中氏が注目され、再評価される気運が高まっているのもわかる気がします。

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漆原 直行

うるしばらなおゆき




1972年東京都生まれ。編集者・記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中より若手サラリーマン向け週刊誌、情報誌などでライター業に従事。ビジネス誌やパソコン誌などの編集部を経て、現在はフリーランス。書籍の構成、ビジネスコミックのシナリオなども手がける。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』、『読書で賢く生きる。』(山本一郎氏、中川淳一郎氏と共著)、『COMIX 家族でできる 7つの習慣』(シナリオ担当。伊原直司名義)ほか。

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