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「これはタオル代だ。受け取っておいてくれ」田中角栄の“人たらし術”

【連載】「あの名言の裏側」 第3回 田中角栄編(2/4)圧倒的な人身掌握術

できることはやる。できないことはやらない。
しかしすべての責任はこの田中角栄が背負う。
以上! ──田中角栄

 田中角栄氏は1947年の初当選から1990年の政界引退までの43年間、衆議院議員を務めました。その間、内閣総理大臣だけでなく、郵政大臣、大蔵大臣、通商産業大臣と閣僚職も経験しています。
 それは1962年7月、第2次池田内閣で田中氏が大蔵大臣に就任したときのこと。官僚たちを前に発せられた就任スピーチで、田中氏は次のように語りました。
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 私が田中角栄だ。小学校高等科卒業である。諸君は日本中の秀才代表であり、財政金融の専門家ぞろいだ。私は素人だが、トゲの多い門松をたくさんくぐってきて、いささか仕事のコツを知っている。
 一緒に仕事をするには互いによく知り合うことが大切だ。われと思わん者は誰でも遠慮なく大臣室に来て欲しい。何でも言ってくれ。上司の許可を取る必要はない。できることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任はこの田中角栄が背負う。以上!
(向谷匡史『人は理では動かず情で動く』より)
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 官僚、それも大蔵省(現・財務省)のとなれば、みな東大法学部卒のスーパーエリートばかり。高等小学校卒が最終学歴で、もとは土建会社の社長という経歴の田中氏を値踏みするようなムードも強かったことでしょう。内心、バカにしていた官僚も少なくなかったはずです。いずれにせよ、田中氏が自分たちにどんなスピーチをするのか、官僚たちは興味しんしんだったはず。

田中角栄(写真/時事)

 そんな、官僚の興味関心がもっとも集まる瞬間に、田中氏は上記の挨拶をぶちかましたわけです。まずは自分を下げて、相手を上げておいてから、謙遜しつつ自分のできることを述べ、さらにすべての責任は自分が負うから何でも言ってくれ、と熱く語りかける。短時間で、内容も明瞭。圧倒され、心を鷲掴みにされる官僚たちの姿が目に浮かぶようです。田中氏は人心掌握の達人──要は“人たらし”だったことでも有名ですが、その一端がこの逸話からも見えてきます。

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漆原 直行

うるしばらなおゆき




1972年東京都生まれ。編集者・記者、ビジネス書ウォッチャー。大学在学中より若手サラリーマン向け週刊誌、情報誌などでライター業に従事。ビジネス誌やパソコン誌などの編集部を経て、現在はフリーランス。書籍の構成、ビジネスコミックのシナリオなども手がける。著書に『ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない』、『読書で賢く生きる。』(山本一郎氏、中川淳一郎氏と共著)、『COMIX 家族でできる 7つの習慣』(シナリオ担当。伊原直司名義)ほか。

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