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今、危機にある哲学を救う

現在観測 第30回

 私が本格的に哲学を始めたのは5、6年前ですが、その頃と比べても、哲学に対する興味や関心は大きく高まってきているように思います。哲学書や哲学カフェのブームは、もはやブームと言えないほど広がり、定着しつつある感さえあります。

 ただ一方では、「哲学とはそもそも何か?」という問いについては、ほとんど問われることなく、放置されている気がしています。

 哲学は私たちにとってどのような意味をもつのか。哲学の可能性は何か。こうした問いについて答えようとするなら、まずは、哲学とは何かについて考えておく必要があります。そうすれば、「そもそも哲学に意味があるのか?」という問いについても、何らかの考えを出せるかもしれません。

 

哲学とは?

 まず確認しておきたいのは、哲学とは何かという問いに、あらかじめ決められた「正解」はないということです。

 もちろん辞書を引けば、定義は示せます。ただ、そこから哲学がどのように“生きられているか”を逆算することはできません。ルールブックを読んでもスポーツの楽しさは分からないのと同じです。哲学が何であるかは、私たちにとってそれがもつ意味に着目することでしか答えることができません。

 では、私たちは哲学をどのようなものとして捉えているでしょうか。

 おそらく代表的なイメージは次のようなものでしょう。いわく、哲学とは隠された真理を探求する学問であり、哲学者とは古今東西のあらゆる知恵に触れることによって、歴史をつらぬく真理をつかみ取った天才である、と。あるいは、こんなイメージもあるでしょう。いわく、現実から一歩離れて“常識”を疑い、世界を正しく捉えているのが哲学者である。常人では思いつかないような仕方で世界を理解しているのが哲学者だ、と。

 その他たくさんのイメージがありますが、共通しているのは、哲学者は一般人には近づけない“真理”を知っていて、その“真理”のなかには、人生や世界の究極の意味がぎっしり詰まっているに違いない、ということだと思います。具体的な中身は分からないけど、昔から多くの人間が携わってきた学問なんだから、それに触れればきっと人生が豊かになる。特効薬にはならなくても、知っておいて損はないはず。人生に不満を覚えるのは哲学が足りないからだ。そう思っているひとは案外少なくないはずです。

 
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平原 卓

ひらはら すぐる

1986年北海道生まれ。早稲田大学文学研究科修士課程修(人文科学専攻)。哲学者。哲学解説ウェブサイト「Philosophy Guides」主宰。著書に『読まずに死ねない哲学名著50冊』(フォレスト出版)、『自分で考える練習』(KADOKAWA)など。


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