仕事とは全人格の戦い。生き残るビジネスマンは何が違うのか?【佐々木常夫】後編 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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仕事とは全人格の戦い。生き残るビジネスマンは何が違うのか?【佐々木常夫】後編

仕事人生を学び直すチャンス

 

■お客さまのために仕事する人しか生き残れない

 誰からも頼りにされる、優秀なビジネスマンというのは、どんな人でしょうか? それはお客さまのために仕事をする人です。逆にダメなビジネスマンというのは、ライバルを蹴落とそうとしたり、お客さまのことを考えないで、高価で品質の悪いものを自分の都合だけで売りつけようとする人です。トラブルが起きるとすぐに責任転嫁して、クレームをつけられるようものなら、逆ギレするような人ですね。そのような人が他人から信頼されることはありません。

 東レ時代にこんな出来事がありました。営業の仕事を担当していたときに、ある会社から合繊についてのクレームが来たのです。すぐに調べてみると、工場のミスで、すでに製品まで作られていました。私はすぐに飛んでいって、その製品を時価で全部買い上げ、代わりの原料を無償で出荷したのです。それを3日でやりました。すると、先方が驚いて「これまではクレームを言っても〝それはあなた方が悪いんだ〟という態度の人たちばかりでした。それなのに佐々木さんはすぐに製品を買い上げて、原料を無償で提供してくれました。これからは佐々木さんのところから全部買います!」と言うのです。

 クレームはチャンスです。お客さまのために仕事を続けた結果、その当時、史上最高の売り上げを達成することができました。目先の私利私欲や身の保身ばかりを考えている人は、結局のところ、周囲の信頼を失い、誰からも相手にされなくなるだけです。

 以前に、出版記念パーティーを開いたときのことです。現役時代のお客さまが、複数人もわざわざ地方から駆けつけてくれて、激励の言葉をかけてくださったことがありました。わたしが「遠くから、ありがとうございます」と言うと、「佐々木さんにどれほど恩を受けたことか」とおっしゃるのです。おそらく、私が自分のためではなく、お客さまのためにどうするのが一番いいかを常に考えて行動したからだと思います。そこを見てくれていたのだと思います。そうした強固な信頼関係の大前提となるものが礼儀正しさなのです。

 私のこうした価値観や人生観は、幼い頃、母親から教えられました。母は19歳で結婚し、4人の男の子を授かりました。私は二男ですが、父は私が6歳のときに亡くなりました。母は必死になって働き、女手ひとつで子どもを育て、大学まで行かせてくれました。母は外で働いていましたので、昼間は家にいません。その分、かなり厳しい躾を受けました。「人に会ったら挨拶をしなさい」「みんなと仲良く遊びなさい」「仲間はずれはいけませんよ」「嘘をついてはいけません」「間違ったことをしたら勇気を持って〝ごめんなさい〟と言いなさい」と叩き込まれたものです。

 最も印象に残っているのが「運命を引き受けよ」という言葉です。「運命を引き受けて、頑張っても、結果は出ないかもしれないけど、頑張らなければ結果は出ないんだよ」と、母は私に説いてくれました。

 ところが、そんな話を若い人としていたら、「佐々木さんたちの世代は運命を引き受けて頑張ることができたかもしれないけれど、私たちは運命を引き受けて諦めるんです」と言うんですね。

 私は幸せをつかもうとして頑張りましたが、いまの時代、若い人の中には、幸せをつかもうとしない、そもそも諦めている人が少なくないようです。礼儀正しさに加えて、もうひとつ、若い人に関してこの点が気になっています。この人生100年時代に、なぜ20代、30代で諦めてしまうのか。「佐々木さんたちの世代とは時代が違いますからね」と言う人もいますが、私はそうは思いません。高度経済成長の時代に生きようと、バブル崩壊以降の失われた30年の時代に生きようと、人間の幸・不幸の本質は変わらないと思います。人それぞれの幸・不幸は体重計や血圧計で測れるものではないのです。

 私は若い人たちに本当の幸せとは何かを考え、つかみ取ってほしい。そのために大切なことは人生と仕事に積極的に取り組み、自分を磨き上げることです。困難な仕事であっても果敢に挑戦し、成し遂げること。たとえ苦手な人と一緒でも、何とかしてつき合う方法を見つけだすこと。そうすることで自分を高め、磨き上げ、結果として幸せをつかむことにつながると信じています。

 現役時代の私は、肝臓病とうつ病で入退院を繰り返す妻の看病と、障害を持つ長男、二男、長女の育児・家事をこなしてきました。57歳のときに同期トップで東レの取締役に就任したのですが、わずか1年余りで取締役を解任されて、子会社に左遷されたのです。しかも、ちょうど、そのタイミングで妻が自殺未遂するというショッキングな出来事も重なり、どん底を味わいました。

「人生終わった」とさえ思ったこともあります。

 でも、ふとした瞬間に「運命を引き受けよ」という母の言葉が浮かんだのです。いまの状況は、自分が試されているのだと。諦めずに困難に立ち向かっていれば、やがて道は開けると。私は、サラリーマンとしては、出世レースからは脱落しましたが、結果的に会社に縛られずに、人生の寄り道ができました。さまざまな出会いから、本を出すこともできた。そして、本当の幸せとは、お金のある、なし、社会的地位ではないということにも気がつきました。私は、今年で79歳になりますが、文章や講演などを通じて、若い人たちを応援していきたいですし、もう一度ベストセラーも出したいと思っています。

 ぜひ、みなさんも人生を諦めるのではなく、前向きにとらえて、本当の幸せをつかみとってほしいと願っています。

 

佐々木常夫(ささき・つねお)略歴

1969年、東大経済学部卒業後、東レ入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活。。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建やさまざまな事業改革など多忙を極めそうした仕事にも全力で取り組む。

2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より東レ経営研究所社長となる。

2010年(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表。
多くの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観をもち、現在経営者育成や管理職教育のプログラムの講師などを勤める。
社外業務としては内閣府の男女共同参画会議議員、総務省、厚労省、国交省などの官庁の審議会委員、大阪大学客員教授などの公職を歴任。

2006年に「ビッグツリー~私は仕事も家族も決してあきらめない~」を出版。その後「部下を定時に帰す仕事術」「そうか 君は課長になったのか」「働く君に贈る25の言葉」「実践・7つの習慣」「40歳になったら働き方を変えなさい」などがベストセラーになり、2011年ビジネス書最優秀著者賞を受賞。現在累計190万部。

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大崎量平

おおさき りょうへい

記者・編集者

学習院大学文学部哲学科卒業。大学卒業後、医療系出版社、編集プロダクション、フリーランスの編集記者、KKベストセラーズ「月刊CIRCUS」編集部、徳間書店「週刊アサヒ芸能」記者、家電業界誌、光文社「FLASH」記者を経て、2018年より講談社「週刊現代」記者として活動。芸能・スポーツからビジネス、社会評論に関する書籍の構成ライターも務める。

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