39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(前編)【たらい回し人生相談】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(前編)【たらい回し人生相談】

【たらい回し人生相談】〜ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く〜 連載第3回

荘厳なオイル王国の建築物

 

■39歳子供部屋おじさん、異世界行きの経緯:

 査問会は地獄のような雰囲気で始まった。A氏は生真面目にもジャケット姿で登場したが、その表情は硬く、冷凍庫に入れられたハムスターのようだ。一方で彼を待ち受ける関係者たちは、みな普通の外見なれどどこか一癖ありそうなおじさんばかり、得体の知れないオーラを放っており、まるでどこかのマンガに出てくる魔王軍のようであった。

 

 <A氏と大司教以外のメンバーは以下の通りである>

K氏:A氏に金を出した人、淫夢厨。聖杯所持者。
Y氏:A氏に金を出した人、元自衛官。
M氏:A氏に金を出した人、医療関係者。
H氏:A氏に金を出した人、スタッフ。
筆者:A氏に金は出していない、ライター(注5)

  

A氏:…………。

M氏:えーっと何かしゃべってくれないと。

A氏:…………。

K氏:喋って、どうぞ。

A氏:…………。

K氏:あくしろよ。

A氏:…………。

Y氏:ええと。とりあえず。オイル王国に行くことになった経緯などを話してもらうということで。

A氏:経緯……そうですね。最初にオイル王国の王都にある王立高校の先生をやる口があるという話を聞きまして。その話は別に僕を指名したということではなくてとくに誰が、という話でもなかったんですけど。面白そうだと思って応募したんです。それで日本語教師養成コースに入って勉強したという。

大司教:それは誰かに行くように言われたんですか。

A氏:いや自分から。自腹です。

 

 自発的に学校に通うなど、その時点ではA氏の意欲もそれなりに高かったようだ……。しかし順調なスタートを切ったように見えるのは最初だけだった。すぐに費用が尽きてしまったのだという。

 

A氏:その後、現地に慣れるためオイル王国に渡航し、三か月滞在しました。オイル語の学校にも行きました。ビザの準備とか人脈作りとかそういうのをしてきなさいって感じで。

大司教:現地ではどういう家に住んでたんですか。

A氏:外国人とのシェアハウスで、家賃は7000ゴールド(注6)です。現地の人にあっせんしてもらって。その後、日本に戻ったんですけど。

大司教:その時点でもう、本格的にオイル王国で就職するための再渡航費がなかったわけですね。だからもうやれません、みたいな。ただ、もともとそういう予定だったなら、その時点で費用がないっていきなり言い出すのはちょっとありえないと思うんですけど。

A氏:思ってたよりお金がかかって。

K氏:ようするになにも考えてなかったんでしょ。はっきりわかんだね。

大司教:それで、オイル王国行きのためのカンパを募ろうって話になったんだけど、その時点でもうAさんはぜんぜん乗り気じゃなかったんだよね。もう行きたくない。行かなくてもいいですよね。そういう空気を出してたよね。俺はそこで(無理やり渡航させてやろうと)やる気を出して「もう日本には帰ってくるなよ」ってつもりでお金を集めたんですよ。わはは。そしたらAさんはかたくなに「往復の旅費をくれ」と言いだして……。

A氏:その方が旅費がちょっと安くなるので。

大司教:そうですか。そんなに帰りたいんだなーって思ってました。それでけっきょくAさんは再度異世界に行くんだけど、一か月も働けず帰ってきたわけですね。

A氏:ビザが取れなかったんだからしょうがない。

大司教:異世界の事情について説明すると、オイル王国はいま難民問題もあって、基本的には移民に厳しい状況です。ただ、今回問題なのはビザが下りなかったというより、ビザを得るための対応をしなかったことですね。というのも現地はコネ社会で、コネがあればなんとかなった。そのことはAさんにも何度も説明した。今回、王家に関わる強いコネクション(注7)があって、頼めば有力者から助力を受けられた。自分から頼まなきゃダメだったんです。でもAさんはそうするよう言ってもやらなかった。

筆者:ところで現地の言葉は使えるんですか。

K氏:そうだよ(便乗)

A氏:むり。

K氏:は?(威圧)うせやろ?

大司教:語学ができないから無理じゃなくて、異世界に馴染んでる日本人の方が仲介にいたので頼めばよかった。向こうはコネ社会だというのは再三説明したはずです。決まり通りに書類を出せばうまくいくというのは日本の感覚です。日本社会の感覚で異世界で暮らせるわけないよね。ビザが下りなかったこと自体はAさんのせいじゃないけど対応は全部間違ってたよね。

K氏:ミスが多すぎんだよね、それ一番言われてるから。

 

ファンタジーといえばバトル

 

 A氏はだんだん異世界での生活にイヤ気がさしてきており、ビザが下りなかったときも、申請を通す努力はせず、むしろこれ幸いと帰ってきたらしかった。実際、A氏の返答からも、とくに異世界での仕事を継続したいとか、それが叶わず残念だったというような意思を感じさせるものはなく「だめだったんだからしょうがないだろ」という空気を漂わせている。

 実際、A氏は滞在中もツイッターでオイル王国への不満をたれ流し続けていた。慣れない異世界での生活に疲れるのは無理もないが、なぜそこまでイヤになってしまったのだろうか? 査問会の焦点は徐々に具体的なものに絞られていく……。

 魔王軍こと査問会メンバーたちは、彼が異世界で買春して散財したのではないか? という疑惑を抱いていた。A氏の驚くべき釈明とは。

注5:無職の別名でもある。無職と言いづらい時はライターと名乗ろう。

注6:通貨で国がバレるのでゴールドとし、レートも変更しました。 
注7:当記事が大人の事情でファンタジックになっている理由のひとつ。

(後編に続く)

✳︎連載「たらい回し人生相談」は毎週日曜日更新予定

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