39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(前編)【たらい回し人生相談】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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39歳子供部屋おじさん、異世界転生できませんでした(前編)【たらい回し人生相談】

【たらい回し人生相談】〜ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く〜 連載第3回


「ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く」・・・本邦初のカルト人生相談シリーズ。今回は、「39歳子供部屋おじさん」無職の独身男性 A氏。彼はいったいなぜ「たらい回し人生相談」にやってきたのか? いや連れてこられたのか? 相談部屋の主人は「大司教」と呼ばれる謎の危険人物。ある筋では名の知れた博覧強記の異常天才である。A氏との緊迫感漂う人生相談の一部始終を公開。今回はその前編である。


大司教(左)とA氏。

 

冒頭:

 39歳無職の独身男性、A氏。彼はいわゆる「子供部屋おじさん」だった。

 そんな彼は、ある日一枚のチケットを手にしていた。それは人生を取り戻すチャンスだった。宝くじではない。中東某国行きの航空券のチケットだ。大人の事情によって国名は明らかに出来ないが、仮にオイル王国(仮名)としよう。

「君はオイル王国に行きなさい。生きて帰ってこなくていいから」

 彼に斡旋されたその職業は、日本語教師である。現地では高収入が得られ、社会的地位も保障されるという。悪くない仕事だった。オイル王国は人脈が重要視されるいわゆるコネ社会だが、有力者の紹介もあって苦労して就活する必要もないという。悪くないというより、39歳職歴なしの彼にとってはリアル異世界転生と言っても過言ではないチャンスだった。周囲も彼を応援し、寸志を渡して彼を追い……もとい送り出した。

 しかし彼は、あろうことか異世界で一か月も働かずに日本に帰ってきてしまった。

 この就職のコーディネートに関わった住所不定おじさん「大司教」はこれに激怒、都内某所にA氏を呼び出し、お金を出した関係者も集めての「査問会」を企画した。A氏の今後の身の振り方について話し合うという。ついでにこれを人生相談ってことで記事にするという。連載三回目にしてすでに紙面を私物化しつつある謎の男、大司教は何をするつもりなのか?

 A氏はなぜ異世界から帰ってきたのか?(注1)

 大司教はベストタイムズ紙面を何だと思っているのか? 

オイル王国の壁の落書き

 

主要人物紹介:

A氏:子供部屋おじさん。大学卒業後ストレートに無職になったいわばプロパー無職。インセル。大司教とは旧知の仲で、日本語教師の件もその縁だった。最近無一文になって異世界から帰ってきてしょんぼりしている。

大司教:住所不定おじさん。多様なコネを持つ闇のブローカーであり、そのコネクションは中東圏から国内IT産業まで幅広い。今回、そのコネを使用してA氏を異世界の土にしようと送り出してあげたところ、生きて帰ってきたのでご立腹。

TBS「報道特集」で重要人物として独占インタビューされていたときの大司教

 

 まず以下に、当記事の前提となる出来事について述べる。A氏は二度オイル王国に転生しており、時系列上の混乱を避ける目的で、記事内容と一部重複することになるが、以下にプロジェクト沿革を記す。

 

【A氏異世界転生プロジェクト沿革】

■2021年
オイル王国で日本語教師のポストが空く。A氏は深く考えず「俺がやるぜ」と手をあげてしまった。

■2022年
・4月〜6月 A氏、現地生活の準備と称し、オイル王国に3か月滞在、近隣のヨーグルト王国へ観光旅行もする。この時期のゴールド収支はきわめて不明瞭である。
 その後、文無しで帰る。
・6月 A氏、予算不足を理由に再渡航を拒否する。当然、話は進んでいるため問題になる。
・7月 大司教動く、A氏を再渡航させオイル王国の土にするため、知人に声をかけて異世界転生資金を供出させる。これによって金がないという言い訳を封殺。
・8月 A氏、オイル王国に(いやいやながら)ふたたび転生、3週間ぐらいの間、週休4日のきびしい職業生活に従事。
・9月 A氏、ビザ取得困難を事由として異世界転生の失敗を宣言、日本に帰る。
・10月〜11月 A氏、経緯の説明を求められバックレる。
・12月 大司教、A氏の査問会を招集

 

■前日譚 いざ子供部屋へ:

 査問会開催に先立って、大司教はA氏宅(実家)を訪れていた。

 自分が糾弾されることが分かっている会に自分から出てくるA氏ではない。彼は「合わせる顔がないから」の一点張りで、査問会への出席を拒んでいた。また関係者との連絡もブッチしていた。要するにバイトをバックレるのとだいたい同じノリで問題を解決(?)しようとしていたのである。

 なので、まずA氏との連絡を回復させつつ、あわよくば査問会へと誘い出さなければならない。それが大司教のミッションであった。エサはある。A氏はこの記事を読んでいる紳士淑女のみなさまと同じで、他人の悪口が大好きなのだ。

 

 大司教の人心操作のテクニックが光る。

 

大司教:(先だったラインのやり取りで)我々とはもう会話をすることがないということを言っていましたが、そういう考えなのですか?

A氏:その資格がないですね。私にはね。

大司教:その資格はありますよ。というか資格があるとかないとかの問題じゃなく責任の問題だけどね。みんな君の現状は知りたがってるよ。心配はしていないけど。

A氏:ラインで話した通りです。

大司教:事情が変わってないからあれ以上の話はないよってことかな。まず俺はAさんが悪いと言いにきたんじゃないんだけどね。俺個人としては経緯の詳細もわからないし、そのあたりのことも知りたいね。現地でのサポート不足も含めて周囲の問題もあったわけですし、オイル王国の移民に対しての方針(注2)もあるわけです。そういう意味でAさんを責めていない。事情を聞かないと経験が今後に活かせないですから。

A氏:うーん。

大司教:それはそれとして、あの件以来Aさんが周囲との連絡がつかなくなったのは正直困る人もいるし。連絡を絶つにしてももうちょっと言うべきことは言ってからにすべき、くらいには思っているけどね。ほら、みんなから渡航費もカンパしてもらってたけど、少額とはいえ気にはなるでしょ。

A氏:ビザの関係で帰りましたとは言いましたが。

大司教:普通それだけの説明じゃ関係者に対して不足ですよね。呼んでも来ないつもりなの?

A氏:今更顔出すのもちょっと。

大司教:分かってると思うけど、合わせる顔があろうがなかろうが、ここで顔を出すかが今後の人間関係の分水嶺になりますよ。単刀直入に言うと、今後も我々に関わらないつもりですか? という質問です。

A氏:帰ってくるのを決めたときにその覚悟をしていた。

大司教:ワハハ。なんの覚悟ですか。さっきからそうだけど、合わせる顔がないとか関わる資格がないとか関係切る覚悟で帰ってきたとか、基本的に舐めた態度でしかない。なにそれ。

 

 そこから会話はA氏の近況や、周囲の人間関係の話になるが割愛する。彼ははじめ死んだような目をしていたが、話題がふたりの共通の知人である某氏の悪口になると元気になり、その目はキラキラと輝きだした。

 某氏はツイッターで彼の悪口を執拗に言って煽っていたのだが、渡航費のカンパを頼んでもお金を出してくれなかったのである。大司教が「某氏は金を出してもないんだから煽る筋合いもあるまい」という主旨の発言をしたところ大いに喜び、それによってだいぶ立ち直った。

 

大司教:正直、Aさんが今人間関係を切って、今回みたいに異世界転生するのはけっこう難しいと思いますよ。あ、ちなみにまだ別の異世界の仕事もあります。パキスタンの発電所での仕事(※募集中)とか。

A氏:行きません。興味ないから。

大司教:ふーん。興味ねえ。まあ今回、結果は出なかったけど、最初に突撃するファーストペンギンてのが必要なわけで、ファーストペンギンとしてはAさんを評価していますよ。チャレンジして失敗したのは偉い。ただ撤退の仕方がよくないから、顔を合わせてもいいかなって人だけ呼ぶのでもいいから。

A氏:わかりましたよ。じゃあ顔を出しますよ。

大司教:そうしてくれ。

A氏:そのまま俺を拉致して殺して、Y県の畑(注3)に埋めるとかないよね?

大司教:あれは別の人を埋めるために用意した畑です。自称ベストセラー作家の○○○先生が○○○○氏とケンカしてさ、焼き肉屋でギャン泣きしたり○○○○氏を殺害しろとDMで脅迫してきてうざいから、逆に○○○先生を埋めようかな(注4)って。ワハハ。

A氏:死ぬのはイヤだなあ。

大司教:とにかくさあ、せめて自爆攻撃くらいの面白さで死んでくれないと困る。俺に対してメンヘラの遺書を送ってきてはい死にましたとかなんの価値もないじゃん。みんなそうだ、すぐ殺人とか自殺とか口にするくせにさあなんの役にも立たない。

A氏:うふふ

 

 A氏はちょっと安心した様子——ここで突如、大司教が吠えた。

 

大司教:人に迷惑かけるだけかけて最後美しく死ぬみたいな美学に耽ってんじゃねえ! 頼むから少しでも良いから面白くなるような死に方してくれよ! なんの役にも立たない!

A氏:ひっ。

大司教:だから俺はAさんに期待しているしさあ! Aさんはまだ面白おかしく死ねるくらいの能力はあると思っているから。まあいい。こんな話していると、またテロリストが勧誘しにきたって言われちゃうからな。

 

 ヒートアップした大司教の大声が団地の廊下に響きわたった。

 大司教はにこにこしているかと思えば、正規品のティファール並みに早く湧くから油断ならない。相手をちょっと油断させてから押し込むという、あのヤクザとかがよくやる心理テクニックである。今風に言うとメンタリズム。

 なんにせよ、このような経緯でA氏は自身の「査問会」に召喚されたのだった……。

注1:異世界とか言いたくねえんだけど、大人の事情でよ。

注2:異世界の国際情勢の影響もあり、オイル王国は移民に厳しくなりつつあった。

注3:大司教は最近は農業にも手を出している。

注4:誰かは伏せるが両者とも存命。お互いよかったですね。

 

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