学校は“何でも請負業”か? 家庭・学校・地域から失われていく「自立性」と「教育力」【西岡正樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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学校は“何でも請負業”か? 家庭・学校・地域から失われていく「自立性」と「教育力」【西岡正樹】

文科省主導の「教育改革」が、つねに失敗する最大の理由

■ある小学校で起こった「家出」事案の顛末

 

 また、ある小学校で次のような「家出」事案がありました。

 「子どもが家に帰って来ない」と担任に連絡が来たのは、夜の945分。教頭からの突然の電話でした。そして、次のような話をして、電話を切った。

 「△△先生のクラスの子どもである○○さんが行方不明の状況なのですが、○○さんはどんな子どもでしたか?」

 報告というより、いきなりの質問です。質問は1つ、2つに留まらず、次々に続いたのですが、あまりの急な展開に、担任の気持ちはついていけません。

 「今日の学校の様子?」「トラブルの有無?」「今日の様子で変わったことはあったか?」「どんな服装?」「行きそうな所は?」などの質問が続き、応えられることは丁寧に担任は話しました。

 すると、ふいに

 「クラスの連絡網はありますか?」

とその警察官は聞くのです。

 「ありません」

と答えると、

 「申し訳ありませんが、先生のほうから行方不明の子どもと関わりが深い子に、電話をかけてほしいんですが。何か情報があるかもしれないので」

 担任は何が何だか、益々心の整理がつかないまま事が進んでいく。しかし、結論を急がず自分を落ち着かせ、その依頼を担任は保留にした。そして、同学年の教師たちにはグループラインで情報を共有し、とりあえず学校に向かったのです。

 午後10時半過ぎに学校に着くと、管理職二人と学年主任がすでに来ていました。

 校長の指示で10人ほどの子どもの家に電話をかけることになった。そして、情報を得ようとしたが何の情報も得られない。しかし、不思議なことに、担任が学校に着いてからも行方不明になっている子の保護者から何の連絡も入ってこないのです。その後も、学区内を学年主任と担任が手分けして、子どもたちが居そうな場所や通学路を探したが、見つかりません。

 そして、午前0時、何の手掛かりも見いだせないまま、4人は解散し、帰宅しました。

 翌日の早朝6時に教頭から担任に電話が入った。不安な気持ちのまま電話を耳に当てた。

「見つかったと警察から連絡がありました。詳しいことは分かりませんが・・・とにかく無事で良かったです」

 ほっとした気持ちでいると、645分ごろ、警察から電話が来た。

「5時半ごろ見つかりました。詳細は後でお父様から聞いてください。ご協力ありがとうございました」

 〈えっ、それだけの報告とお礼・・・〉 警察からの詳しい説明は何にもありません。たったこれだけの報告で済まそうとしていることに、担任は驚きを隠せませんでした。その後、担任は学校へ出勤し、管理職に詳しい情報は得られたかを訊いてみたのですが、「何の連絡もない」ということでした。担任は、詳しいことが何も分からないまま、ほかの生徒たちには「無事に帰ってきた」ことを報告しなければならないことに、いら立ちを感じていました。

 ところが、どういう巡りあわせか、その日は個人面談の日で、家出した子どもの保護者と面談することになっていました。その時にようやく、「先生方にもご迷惑をおかけしました」という言葉を保護者から直接もらい、事の詳細を聞くことができたのです。しかし、モヤモヤ感が消えることはありませんでした。

 

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西岡正樹

にしおか まさき

小学校教師

1976年立教大学卒、1977年玉川大学通信教育過程修了。1977年より2001年3月まで24年間、茅ヶ崎市内の小学校に教諭として勤務。退職後、2001年から世界バイク旅を始める。現在まで、世界65カ国約16万km走破。また、2022年3月まで国内滞在時、臨時教員として茅ヶ崎市内公立小学校に勤務する。
「旅を終えるといつも感じることは、自分がいかに逞しくないか、ということ。そして、いかに日常が大切か、ということだ。旅は教師としての自分も成長させていることを、実践を通して感じている」。
著書に『世界は僕の教室』(ノベル倶楽部)がある。

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