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Scene.30 本屋の労働運動を知っておいて!

高円寺文庫センター物語㉚

「いらっしゃいませ、大原さん。

お探しの本は、古書の長谷川書店さんでうまく見つかったようですね!」

「お蔭さまで稼ぎになったの、文庫センターに還元しちゃうから今日は本を買うわよ! 店長のおススメをプレゼンしてね。お向かいのニューバーグでランチしている間に、お願いよ」

「急だな・・・・手帳、手帳っと!」

「店長はマメですよね。能率手帳に読んだ本や、その日の出来事に就業時間まで書き込んでいるんですもんね」

手帳は71年から小まめにつけ始めていた。このブログを書くにあたり、手帳での記録が役立ったことは言うまでもない。やはり紙に記録して、保管が一番!

「うん、1970年から付けてる。

反戦運動にかかわりだした頃に先輩からさ、『警察は弾圧しようとしたら、冤罪を仕掛けてくるからアリバイのためにも日記を付けておけ』って、言われてからの習慣になっちゃった」

「店長、どう? 『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』は買うわよ。ほかにおススメの本はあるかしら?」

「これから出る本になるんですが、ジョン・ダワーという米国の大学教授が書いた『敗北を抱きしめて』が、気になっていて読もうかと思っているんですよ。

ピュリッツァー賞をはじめ、名立たる賞を取ったということは対日米国史観を改めてこの時代に上梓して世に問うたということじゃないですか。

しかも翻訳を出すのは岩波書店ですよ。これは、考え方や立場で恐ろしく評価の別れる本になると思うので、自分の歴史観と考え方の鍛錬になる本じゃないかなと思っているんです。

本は批判的にも読み込める醍醐味があって、刺激的でゾクゾクきますよ!」

「相当、ハードルが高そうだから考えさせて。

先日、教えてくれた朝日新聞社の『アサヒグラフに見る昭和の世相』は発見の連続で、脳みそがシェイクしたわよ!」

学校で教えない、戦争に向かう日常生活や戦時下を伝える写真は焼き付いた。これを手にしたのは1975年、鮮烈に記憶した頁に「出版のしおり」が挟んであった。

昭和17年10月、『反攻を準備する米軍を侮るな、一億一心戦い抜こう』という個所には、『米軍はネグロ兵を訓練し「常套手段」として地獄へ送り込む!』と書いて、米軍の非道を煽っている・・・。

黒人やインディアンを、兵士として米軍はどう扱ったのか気になっていた。

「そうそう、広告も面白くて『ムッソリーニペン』なんてのがあったなんて・・・・」

「歴史に寄り添うって大事ですよね?!」

「本屋さんって、古本屋さんとコラボしたらもっと便利なのに」

 

アタマの中には、パティ・スミスの「People Have The Power」が流れる。

Scene.30 本屋の労働運動を知っておいて!

 

「店長、ランチに行きましょう」

「わお、シャキじゃん。

ちょうどいい時間に来たね。今日は内山くんとクロちゃんに神田村へ仕入に行ってもらうからさ、いまからニューバーグに行こうと思っていたんだ」

「シャキさん、いらっしゃい。漫画の『バガボンド』最新刊をガッツリ仕入に行ってくるんですよ。

取次が変わったくらいじゃ、大人気な漫画本の需要を満たす供給があるわけないですから」

「クロちゃん、しっかりしてきましたね。仕入の帰りは、重い荷物で大変でしょ」

「とんでもないです!

驚きの連続で、刺激的なことばっかですよ。神田村ってどこなんだろうって思っていたら、東京堂書店があるすずらん通りから一歩入った辺りっていうだけの話だったりとか。

小さな取次店さんで仕入れた本を、その店の前にある台に置いて次の取次さんでも同じことして最後に回収するんですけど、置きっぱなしでも盗まれないんですよ!」

「クロ、はよ行くっちゃ!

『バガボンド』無くなるけんが、シャキまたな」

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のがわ かずお

1951年 東京生まれ。書泉を経て、高円寺文庫センター店長。その後、出版社のアートン・ゴマブックス・亜紀書房顧問。本屋B&B、西日本出版社などにかかわる。 温泉とプラモデルと映画を、こよなく愛する妖怪マニア。共著『現代子育て考5.男の子育て』(現代書館)、『独断批評』(第三書館)。


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