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学校再開は「定額働かせ放題」と「変形労働時間制」を見直すきっかけになるか

【第19回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■学校再開の目的とその準備

 昨年の給特法改正で「目玉」とされたのが、1年単位の変形労働時間制である。地方公共団体の判断により2021年4月から実施されることになっているが、これを適用しないように求める意見書が、高知県土佐町議会をはじめとする地方議会で次々と可決されている。
 変形労働時間制は、夏休み中などに休日のまとめ取りするなど集中して休日を確保させるというものだ。裏を返せば「まとめ取りすればいいので、日常は働けるだけ働け」という制度とも言える。

 給特法改正では「月45時間、年360時間以内」とした時間外労働の上限が「ガイドライン」から「指針」へと格上げしている。しかし、すでに小学校で約6割、中学校で約7割の教員が、この上限を超えて働いているのが現状なのである。変形労働時間制が導入されれば、この割合は上昇するし上限をはるかに超える時間外労働が強いられる環境になる可能性が高い。それが、教育環境をより悪化させてしまう。だから、多くの地方議会が適用しないように求める意見書を可決しているのだ。

 変形労働時間制の導入が教育環境悪化につながっていく可能性が高いことは、新型コロナウイルス感染症対策による一斉休校の動きのなかでも明らかになっている。
 3月24日、文部次官名で「令和2年度における小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校等における教育活動の再開等について」という通知が、都道府県教育長や都道府県知事などに宛てて出された。2月27日の安倍晋三首相の要請による全国一斉休校から、文科省が再開を許可した通知である。
 同じ日に東京オリンピック・パラリンピックの開催を1年ほど延期することが決まり、東京都内の感染者数が急に増える事態となった。前日の23日には、小池百合子東京都知事が「東京封鎖」の可能性にまで言及している。そんな状況下で政府・文科省は、学校再開の方針を示したわけだ。当然ながら、「本当に学校を再開していいのか」という意見がSNS上で飛び交った。

 本連載で前回述べたことと重複するが、学校再開にあたって萩生田光一文科相は、3月17日の記者会見で、「例えば40人学級を2クラスに分けて授業を行うなんていうのも、ひとつの方法だと思います」と述べている。それに対して記者から「そういった場合、学校の先生の数にも配慮していかなきゃいけなくなると思うが」と指摘されると、「再開にあたって必要な支援というものは惜しみなくしっかりやっていきたいと思っています」と回答している。
 しかし、今回の通知には、2クラスに分ける案などどこにもなければ、教員の数を増やす形での「支援」についても記されていない。

 しかし「学習指導」については、しっかりと指示されている。そこには、「今般の一斉臨時休業に伴い、児童生徒が授業を十分に受けることができなかったことによって、学習に著しい遅れが生じることのないよう、可能な限り、令和2年度の教育課程内での補充のための授業や教育課程に位置付けない補習を実施すること、家庭学習を適切に課すこと等の必要な措置を講じるなど配慮すること」と記されている。

 一斉休校による学習の遅れは認めない。さらには遅れた分は補習や宿題でカバーしろ、と言っているわけだ。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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