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「超過勤務の解消」が教員の負担を増長するという矛盾

【第10回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■「月45時間以内」のガイドラインは机上の空論

 「定額働かせ放題」を教員に強いる。その根拠となっている給特法の一部を改正する法案が成立したのは、昨年(2019年)12月4日のことだった。改正をめぐっては、たいした混乱もなく、政府・与党の思惑どおりのかたちに収まった。廃止などは遡上に載せられることもなく、むしろ「定額働かせ放題」が確認されたようなものだった。

 とはいえ政府・与党が、「定額働かせ放題」に見て見ぬフリを決め込んでいたわけでもない。

 2019年1月25日に文部科学省(文科省)は、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を示している。その冒頭には、「社会の変化に伴い学校が抱える課題が複雑化・多様化する中、教師の長時間勤務の看過できない実態が明らかになっている」と述べている。
 教員の長時間労働、過重労働を、文科省も認めているのだ。逆に言えば、文科省も無視できないところまで、教員の長時間労働、過重労働の問題は深刻な状況にまできているというわけだ。

 そのガイドラインでは、教員の超過勤務の上限を「1カ月に45時間以内、1年間に360時間以内」としている。しかし、給特法において定められている4%の「教職調整額」は、1966年の勤務状況調査の結果を踏まえて算出されたもので、その基準となった超過勤務時間は月8時間だった。

 改正給特法でも4%は据え置かれたままで、そうであれば文科省が2019年1月に示したガイドラインも、45時間ではなく8時間に改めるべきである。しかし、これを改める気など文科省は一向にないようだ。

 教員側から文句のひとつが出ても当然のようだが、教員側の不満が大きな声になるような動きもない。これでは、「教員は月45時間以内の超過勤務なら納得している」と世間に受け取られても仕方がない。

 ともかく、1カ月45時間というガイドラインは妥当なものだったのだろうか。実現可能なものと考えてもいいのだろうか。

 もしそうであれば、このガイドラインの実現に向けて、着々と施策がとられているはずである。そして、ガイドラインが示されてから丸1年を迎えるなかで、それなりの実績が明らかにされてきてもよさそうなものである。
 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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