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「超過勤務の解消」が教員の負担を増長するという矛盾

【第10回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■過労死ラインも超える超過勤務が横行している

 しかし現実は、どうも違った様子をみせている。2019年12月13日の『山形新聞』(Web版)は「教員の超過勤務、80時間超ゼロに」というタイトルを掲げた記事を載せている。教員の多忙化解消に向けて検討していた山形県教育委員会が、県下の公立学校における働き方改革案を公表した、というものだ。

 その記事は、「2020年度末までに複数月平均で在校時間(部活動を含む)の超過勤務が80時間超の教員をなくすなどの数値目標」を定めたと伝えている。80時間超の超過勤務をなくすということは、80時間以内の超過勤務は認める、ということになる。

 文科省が示したガイドラインは45時間だったにもかかわらず、山形県教委は80時間というラインを決めたことになる。文科省のガイドラインを「無視」したどころか、「45時間の上限の実現など無理」と表明したことになる。

 また、文科省がガイドラインを示す前の2018年9月、千葉県教育委員会は公立学校を対象とする「学校における働き方改革推進プラン」をまとめ、「在校時間の超過勤務が80時間を超える教職員をゼロ」にする目標を明らかにしている。

 これはガイドラインとは35時間もの開きがあるわけで、「これが精一杯」と千葉県も言っているように思われる。ガイドラインが示される前の千葉県、示された後の山形県も「80時間が精一杯」の状況といえる。

 これは月45時間という数字自体が、いかに現実を無視したものであるかを示している。まさに、「机上の空論」でしかない数字なのだ。

 ちなみに、「超過勤務時間が月80時間」というのは、過労死を認定する際の厚生労働省の基準である。いわゆる「過労死ライン」である。

 千葉県や山形県の教委が「80時間超の教員をゼロにする」という目標は、「過労死ラインを超えないようにする」ということでしかない。ごくごく当然のことであり、いまさら目標にすることでもない。目標にする以前に、当然守られていなければならない基準である。

 それにもかかわらず、改めて目標にしなければならないのは、その過労死ラインを超えた超過勤務が横行しているのが学校現場の現状だからにほかならない。それを超えないことを目標にするしかないほど、超過勤務を減らすことは難しい。この一事をもってしても、学校のブラックぶりがわかろうというものだ。

 ガイドラインをクリアしようと、それぞれの教委が独自のプランを策定してきている。しかし現実に即したプランというよりは、ガイドラインを守るためのプランばかりだ。

 現実を無視しているから、仕事が残っているにもかかわらず帰宅を強制される「時短圧力」も横行している。時間を決めて、強制的に学校中の電気を消されて、帰宅するしかない状況に追い込まれる、といった話を聞くのも珍しいことではない。

 文科省のガイドラインも、それを守らんがための教委によるプランも、結局は「絵に描いた餅」でしかない。その皺寄せがくるのは、もちろん教員だ。超過勤務をするしかない仕事内容に苦しめられる教員が、さらなる「絵に描いた餅」プランに苦しめられている。

 こうした現状に目を向けようとしない文科省や教委に、学校の働き方改革を推進していく力があるのだろうか。
 ほんとうの意味での働き方改革が実現されるのかどうか、教員は危機感を抱いているのだろうか。それとも、過重労働でしかない超過勤務を黙って受け入れてきたように、「仕方ない」と教員たちは沈黙を守りつづけるのだろうか。

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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