本は、20世紀初頭まで高価な「アート」であった。1920年代以降、複製技術の進化でマス・メディアが拡大。現在の手にする「本」の形となっていった・・・。現在、フランスの美しい古書の世界を堪能させてくれる展覧会「アール・デコの造本芸術 高級挿絵本の世界」が日比谷図書文化館で公開中だ。フランス文学者・鹿島茂氏のコレクションの中から、バルビエやマルタンなどの芸術家が手掛けた、選りすぐりの挿絵本や雑誌が一堂に介している。「知の巨匠」鹿島茂氏インタビュー後半です。※この記事に掲載されているすべての画像の転載・複製を禁止します。

Q——「アール・デコの挿絵本」の世界。ここからは、「アール・デコの挿絵本」の各パーツの特徴を見ながら、当時の挿絵本がどのようなものだったのかを紹介していきます。アール・デコの装飾本は、「函(はこ)」に入れて保存されることがあったそうですが、「函」はどのようなものだったのでしょうか?

鹿島・・・未綴じの本は、発行部数が300部以下の豪華挿絵本の場合、あまり多くはありませんが、「函入り」で世に出ることがあります。
 その「函」の装飾はすごくあっさりした、無地ないしは模様だけのただの函のこともあれば、本の挿絵を担当したイラストレーターが提供したイラストをふんだんにあしらった、凝りに凝った函のこともあります。
 後者の代表は、ジョルジュ・バルビエがイラストを描いた『ギルランド・デ・モワ(月々の花飾り)』です。これは、バルビエの代表作である『ビリチスの歌』を世に送り出したピエール・コラールが第一次世界大戦で戦死したため、助手をつとめていたジュール・メニアルがつくり出した「袖珍本(懐や袖のなかに入れて持ち運びできるくらいの小型の本)」形式の婦人向けの「暦本(アルマナ)」です。

ジョルジュ・バルビエ『ボヌール・デュ・ジュール(現代の幸福あるいは流行のエレガンス)』 1920 年 © NAO KASHIMA(NOEMA.Inc.JAPAN)

Q——どれくらい発行されたのですか?

 1917年から1921年まで年ごとに全部で5巻発行されました。アール・デコの挿絵本の中でも、最も美しい函の装飾で知られています。ただし、1917年に最初に出た函は緑の縦縞の地味なデザインです。それが、年を追うごとにデザイン性が増し、天地を除く、背、表、裏にバルビエの「ヴィニェット」(=活字とともに組み込んだイラストのこと)を配したタイトル・デザインがなされています。
 しかし、アール・デコのものに限らずフランスの「函」は、総じて作りが日本の函のように頑丈にできていません。たいていは解体してしまっていたり、さもなければ修理が施されていて、完全な状態のものは極めてまれなのです。
 なお、この「函」と、「表紙」および「表紙カバー(ジャケット)」の間に、「エテュイ」と呼ばれる「厚紙のカバ一」を入れる場合があります。たいていは函と同じデザインで統ーされ、そのエテュイには紐がついていて、函なしでも本棚に並べることができるようになっています。

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