◆“北海道”が詰まったパン

 2016年5月に1号店をオープンして以来、北海道でのみ店舗を展開する『ペンギンベーカリーカフェ』をご存知だろうか。札幌市内の4店舗を含めた計8店舗で年間8億円を売り上げる、北海道愛に溢れるベーカリーである。

 パンづくりへのこだわり、そして北海道への想いについて、運営会社である長谷川ダイヤモンドキッチン株式会社の高山英之社長に話を聞いた。

今回お話を伺った長谷川ダイヤモンドキッチン株式会社の高山英之社長

 最近のパンは300〜400円台は当たり前。食パンにいたっては1,000円近くするものもある。そんな中、こちらでは100円台のパンが主流だ。

 「高級バターでたっぷり風味づけしたパンや、味ムラを抑えるために安定剤を使用したパンではなく、おいしくて飽きない、毎日食べられるパンづくりを徹底しています」(高山社長)

 この価格ならたしかに毎日食べられる。しかし、おいしい食べ物が多い北海道で、地元の人たちの心を掴むのは簡単ではなさそうだが、具体的にはどのようなこだわりがあるのだろう。

 「北海道の人は、味付けよりも“素材の味”という点について、すごく厳しいんですよ。だから、原料にはこだわります。添加物を含まないだけでなく、おいしいパンを食べてもらいたいので、小麦は最高級品『ゆめちから』を使用しています。しかも、気候と土壌が素晴らしい十勝産100%です」

◆妥協なきペンギンたちの想い

『とべない食パン』パリッと香ばしいパン耳と、ふっくらもっちりとした生地は、十勝産小麦「ゆめちから」100%使用の無添加食パンならでは

 その『ゆめちから』を使った看板メニューの『とべない食パン』は、引っ張ったら伸びるほど弾力性に富み、焼いてもモチモチ感としっとり感が残る。

 このユニークな商品名はもちろん店名のペンギンから来たものだが、店名の由来は「地域の皆様にも、親しみをもって愛して頂けるようなベーカリーカフェへ」という想いから。しかし、実は「歩幅は狭く、飛べないけど絶対に後ろにはさがらない」というペンギンの習性にも縁があるのだとか。
 派手ではないが、地元の食卓で愛されるパンを目指すという心意気が、ここにも感じられる。そして、その信念は食パン以外のパン作りにも表れている。

 例えば、パンの製造方法においては小麦をお湯で研いで作った生地をさらに水に混ぜるという、最も手間暇のかかる『湯種製法』が採用されている。大量生産には不向きな製法だが、ならではの食感を堪能できる『もちべえ』は累計販売個数100万個を達成した同店のロングセラー。グルメな道民の心をしっかりと掴み、人気商品となっている。

窯からは焼きたてのパンが、続々と売り場へ提供される

 また、同じく人気のカレーパンも一度に作る数は少ない。その理由を聞くと、社長はこう即答した。

「やっぱり、みなさんに揚げたてのおいしいパンを食べてほしいからです」

 その真摯な想いから現在はなんと「30分ごと」に揚げて提供しているのだという。この妥協なき仕事が、地元の食卓で愛されるパンへとつながっているのだろう。

◆「ここでしか…」をきっかけにしたい

 こうした想いと企業努力が実り、デパートなどの催事に出店する機会も増えた同店のパンはそのたびに即完売状態だという。それを受けて、首都圏への出店について聞かれることも増えたというが…、どうやら高山社長にはその気がまったく無いようだ。

 「首都圏進出となれば、家賃、人件費等のコストが確実に上がります。原材料も製法も一切妥協しないとなれば、赤字になるか、値上げすることになってしまいます。北海道で200円だった食パンを400円で売ることはできないですよ。パンはやはり、手頃な価格で毎日食べて欲しいですから」

「ペンギンベーカリーカフェ北野店」に並ぶ100円台のパン

 それに…

 「地元産の小麦、大地の恵みはやっぱり北海道に来ていただいて、その空気に触れながら食べてもらいたいんです。なにせ北海道は広いので、観光時の移動が長くなります。だから、その点と点の間もパンを食べることで線として北海道を味わってほしいんです。
 北海道に足を運んで欲しい。北海道で食べてほしい。うちのパンが、そのきっかけになれたらこんな嬉しいことはないですよね」

 明確な戦略と、圧倒的な地域愛。地元の人たちが集まるのも納得できる。

 「北海道愛って言われれば、確かにそうでしょうね。北海道に対する愛は強いと思います」

 そう笑顔で語る社長に─答えはわかっていたが─あえて聞いてみた。
 例えば通販の可能性はあるのだろうか。

 「ネット通販だと、安定供給のために冷凍しなければいけないですよね。無添加のこだわりを捨て、味を崩してまで通販を行う予定は…今のところないですね」 


「ペンギンベーカリーカフェ・北野店」

 北海道への想いと誇りを持ったペンギンたちが北海道の素材でつくっている、北海道民に愛されるパン。

 まさに『北海道が詰まっているパン』は、今のところはやはり、現地で食べるしかないようだ。