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フランス──「水道民営化」先進地での反乱
~先進国の光と影~

日本の水が危ない⑫

ここ日本でも課題とされている「水道事業への民間参入」。先立って、導入している国々のなかでも、そのスタイルは国ごとに違いがあり、それによって「水道民営化」の評価も分かれてくる。今回はフランスの「水道民営化」の事例を紹介する。(『日本の「水」が危ない』六辻彰二 著より

フランス──「水道民営化」先進地での反乱
先進国の光と影~

 欧米諸国では水道事業への民間参入に長い歴史があるが、これは財政赤字を背景に、新自由主義の台頭とともに1980年代以降に一気に加速した。ただし、水道事業への民間参入のスタイルには国ごとに違いがあり、それによって「水道民営化」の評価も分かれてくる。この章では世界の「水道民営化」の事例を紹介するが、以下ではまず主な先進国での経験を振り返る。

 先進国のなかでもフランスは、「水道民営化」の先進地と呼べる。フランスでは1980年代にコンセッション方式が普及し、フランス環境省によると2010年段階で上水道の約30%(人口の75%)、下水道の約24%(人口の50%)が民間企業によって運営されている。この割合は先進国のなかでも屈指の高さだが、そのほとんどが水メジャーの一角を占めるヴェオリアとスエズの2社によって操業されており、ヴェオリアは8000以上、スエズは2600以上の自治体で活動している。

 その一方で、フランスは再公営化の先進地でもある。トランスナショナル研究所と国際公務労連による調査によると、2000年から2014年までに世界全体で水道が再公営化された180件の事例のうち49件は首都パリを含むフランスのもので、これはアメリカの59件に次ぐ多さだ。また、この調査の対象になっていない1990年代からすでに再公営化の事例は報告されており、アルプス山脈に近いグルノーブル市で1996年に実現した再公営化は、その嚆矢となった。

 これらの再公営化の事例は、フランス人口の約4分の3が民間企業に経営される上水道を利用していることからすれば、一部にすぎないともいえる。とはいえ、「水道民営化」が進んだフランスで再公営化が目立つことも確かだ。なぜ、フランスでは反動が生まれたのか。

KEYWORDS:

『日本の「水」が危ない』
著者:六辻彰二

 

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 昨年12月に水道事業を民営化する「水道法改正案」が成立した。
 ところが、すでに、世界各国では水道事業を民営化し、水道水が安全に飲めなくなったり、水道料金の高騰が問題になり、再び公営化に戻す潮流となっているのも事実。

 なのになぜ、逆流する法改正が行われるのか。
 水道事業民営化後に起こった世界各国の事例から、日本が水道法改正する真意、さらにその後、待ち受ける日本の水に起こることをシミュレート。

 

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六辻彰二

むつじしょうじ

国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。国際政治、アフリカ研究を中心に、学問領域横断的な研究を展開。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。著書、共著の他に論文多数。政治哲学を扱ったファンタジー小説『佐門准教授と12人の政治哲学者―ソロモンの悪魔が仕組んだ政治哲学ゼミ』(iOS向けアプリ/Kindle)で新境地を開拓。Yahoo! ニュース「個人」オーサー。NEWSWEEK日本版コラムニスト。


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