8月に鶴見線の乗り鉄をしたことは、この連載でも書いた通りだが、諸般の事情から中途半端に終わってしまった。それで、けじめをつけるため、9月初旬のある日、鶴見線を再訪することにした。

トンボ道内部

 まずは、弁天橋駅で下車。工場地帯のオアシスともいうべきトンボ道を、管理しているJFEの関係者の案内で視察した。鶴見線の線路に沿った遊歩道だが、金網や草木が生い茂っていて鶴見線の撮り鉄は、ちょっと難しい状況だ。トンボが集まってくるといわれる小さな池があり、あじさいが咲き終わった跡もある。秋にかけて模様替えをするようなので、それに期待したい。歩いて行くなら、鶴見小野駅からの方が歩きやすいようだ。
 昼食後、弁天橋駅で電車を待っていたら、海芝浦行きがやってきたので、先に海芝浦駅を訪問することにした。車内は空いている。浅野駅で本線と分岐し、運河に沿って走る。新芝浦駅を出ると、東芝の工場へ続く引き込み線が分かれている。鶴見線はいつのまにか単線となり、やがて大きく右にカーブすると終点の海芝浦駅に到着する。

海芝浦駅に到着
鶴見つばさ橋

 ホームのすぐ脇は海。といってもかなり幅の広い京浜運河だ。彼方には、首都高速湾岸線の鶴見つばさ橋が見える。電車の先頭に向かって歩くと車止めで線路は途切れ、右手には改札口がある。ただし、出口の先は東芝の敷地内のため社員や所用のため会社を訪れる人以外は通ることができない。もっとも、手前に海芝公園への出入口があり、東芝の関係者以外はそちらへ行くことになる。帰りの電車の時刻を確認するようにとの掲示があった。調べてみると14分後である。それを逃すと2時間も電車がない。勤め人の退勤時である午後5時台や6時台は20分ほど待てば次の電車がやってくるのだが、昼間は2時間毎。都会のローカル線なのである。
 海芝公園は、細長い敷地で中にはベンチもある。そこから見える風景の説明板も立っていて、横浜港の大黒埠頭や横浜ベイブリッジも遠望できる。工場や港の夜景がきれいなので、夜はカップルのデートコースにもなるだろう。
 折返し電車で戻る。次は扇町に行きたいのだが、乗換駅の浅野で待っていても、40分近く待ち時間がある。小雨が降ってきたので、浅野駅で待つのはやめて、一旦鶴見駅へ。改札を出て駅ビルのお店を冷やかしても充分時間があった。
 再び鶴見駅から鶴見線に乗る。今度は扇町行きだ。鶴見線の本線は、平日昼間は、20分毎なのだが、海芝浦行きが走る時は40分間が空くし、浜川崎折返しもあるので、扇町行きは、海芝浦行きと同じく2時間毎になる。したがって、貴重な電車なのだ。浅野駅で先ほど乗った海芝浦方面へ向かう線路と分かれ、武蔵白石駅手前では大川支線と分岐。ここから先が、前回の訪問で乗り残した区間だ。扇町へ行ったのは、もう何年も前の話なので、周囲の様子などは思い出せない。したがって、車窓を眺めていると新鮮な気分になる。
 浜川崎駅を過ぎると、左手に東海道貨物線の線路が見えてきた。セメントを運搬する貨車やタンク車がずらりと停まっている。電気機関車が連結されているので、発車が近いものと思われる。鶴見駅発車時の車内は、午後の早い時間にもかかわらず、意外にも混んでいたけれど、途中駅で少しずつ降りて行き、浜川崎を出ると閑散とした状況になった。
 線路が錯綜しているけれど、鶴見線自体は単線になっている。次の昭和駅は、昭和電工の前身である昭和肥料の工場の最寄り駅ということから命名されたものだ。元号に因んだ駅名として、大正駅(大阪環状線および島原鉄道)、平成駅(豊肥本線、熊本県)とともに話題となっている。

扇町駅
扇町駅のネコ

 鶴見駅から17分で扇町駅に到着。3分で折り返すので慌ただしい。ICカードをタッチして一旦外へ。アーチ状の飾りのある駅入口付近には猫がたむろしていた。猫が集う駅として有名らしいけれど、じっくり付き合っていると電車に乗り遅れてしまうので、2~3枚写真を撮ったら、再度ICカードをタッチしてすぐホームへ戻る。電車に乗り込み、座席に腰を下ろしたらドアが閉まり電車が動き出した。
 乗り遅れると電車は2時間後までないけれど、あとで調べたらバスの便は鶴見線よりも遥かに使い勝手がよさそうだ。もっとも、バスは川崎駅前へ向かうのが主流のようである。このあたりは川崎市。わざわざ鶴見駅に戻るよりも川崎駅に出るのが便利なのだ。

浜川崎駅の乗換案内

 再び昭和駅に停車し、待機中の貨物列車の脇を通って浜川崎駅へ。鶴見駅まで戻っても芸がないので、ここで下車して久しぶりに南武支線に乗車することにした。電車を見送って、狭いホームの扇町寄りにある階段を上る。ICカード用に改札機があるけれど、南武支線に乗り換える人はタッチしないようにとの注意書きが掲出されている。指示に従い、改札機を無視して先へ進み、階段を降りると目の前に道路がある。よく見ると道路の右前方にもうひとつの浜川崎駅が見つかった。そこが南武支線の駅なのだ。開業当初は別々の会社だった名残である。半世紀以上になり、国鉄を経てJRとなっても統合する気はないようだ。

南武支線の電車

 ここでもICカード用の改札機を無視してホームへ。左側が電車の発着用で、右側を見ると、線路はあるけれど柵で仕切られている。何本もの線路が見えるけれど、すべて貨物用だ。南武支線は通称で、川崎から立川を結ぶ南武線の尻手駅から浜川崎駅とを結ぶ支線のことだ。2両編成の電車がこの区間を往ったり来たりしている。ただし、昼間は40分毎と都会にしては閑散としている。
 電車が到着したので乗り込む。発車を待っていると、鶴見線の脇に停まっていた貨物列車が発車し、ホーム脇を通過していった。

浜川崎駅を通過する貨物列車

 やっとのことで発車。次の小田栄駅は、2016年3月に開業した新しい駅である。小田栄とは人名のような駅名だ。周囲にはマンションが立ち並び、これが駅開設の理由であろう。
 川崎新町駅では高校生が大挙乗車してきた。いつの間にか、学校の下校時間になってしまったようだ。2両編成の車内はぎっしり満員となり、身動きできない状況だ。ロングシートなので斜め後ろを見るのもはばかられる。目のやり場に困るので、鞄からタブレットを取り出して画面を見るともなしに眺めることにした。その間に電車は京急の乗換駅八丁畷に停まり、すぐに終点尻手駅に到着した。
 尻手駅では階段を下りて別のホームに移り、南武線の川崎行きに乗車する。こちらもかなり混んでいて座ることはできなかった。さきほどまでの都会離れした鶴見線の世界は高校生の大群の乗車とともに消えさり、同時に慌ただしい現実が戻ってきたのである。