世界で「水」はもうすでに新たなビジネスチャンスだといわれている。日本はこの現状に、どう向かい合うのか?(『日本の「水」が危ない』六辻彰二 著より

【水ビジネスの魅力】

 

 水道事業のコンセッション方式は、各種の民間企業や投資家にとって新たなビジネスチャンスの到来を意味する。内閣府の民間資金等活用事業推進室の資料によると、2013年から2017年までのコンセッション事業の規模は合計で5・6兆円にのぼり、同じ時期のその他のPFI事業を全て合計すると11・5兆円に達した。このうち、先述のように上下水道の案件はまだ少なく、2018年7月の段階で、浜松市を除く5件はいずれもまだデューディリジェンス(資産価値の調査)などの段階だ。

 しかし、民間事業者に大きな裁量を認めるコンセッション方式を導入する自治体が増えれば、水道設備に関連する企業にとってだけでなく、さまざまな企業にとって、いままで埋もれていた市場が急浮上することになる。実際、第3章で詳しく述べるように、これまで日本でも、横浜市川井浄水場での包括的委託事業や浜松市下水処理場でのコンセッション事業など、水道事業に関する大型のPPP案件は実現してきたが、それらのいずれでも機械、金融、エネルギーなど異業種の企業連合が受注している。

 ただし、水道事業への民間参入の解禁をチャンスとみるのは日本企業だけでなく、海外の水企業、とりわけ水メジャーと呼ばれる、世界各地で水道事業を経営してきた巨大企業も同様である。水メジャーは料金高騰や水質悪化などの理由から少なからず悪評も買ってきており、新たな進出先を常に求めてきた。

 その水メジャーにとって、主要国のなかで例外的に水道の公営が保たれる日本は、長くフロンティア(未開拓地)であり続けた。さらに、日本の場合、水処理の機器やろ過素材の開発といった技術分野に強い企業は多いが、公営が長かったため、水道事業の経営そのものにノウハウや実績をもつ企業がほとんどない。これは、水メジャーにとって強力なライバルが少ないことを意味する。

 その水メジャーの一部は、すでに日本に上陸している。構造改革を旗印とした小泉政権が発足した翌2002年にヴェオリアが、2015年にはスエズが、それぞれ日本支社を設立した。このうち、とりわけヴェオリアは日本企業との企業連合の一員として各地で包括的業務委託などに参加して実績を積み、浜松市のコンセッション事業にも参加している。

 水メジャーには、進出先の政府に水道事業の規制緩和などを働きかけることが珍しくないが、これは日本でも同じだった。内閣府の民間資金等活用事業推進室は安倍晋三政権による「官邸主導」のPFI拡大の拠点であり、2018年水道法改正の拠点ともなったが、ここには2017年4月から2年間の予定でヴェオリア社員が政策調査員として出向している。ヴェオリアの露骨なまでのロビー活動は、日本での水ビジネスに利益を見出す海外企業の姿を象徴する。