日本の高校生の演奏技術は欧米のどの国よりも高いわが国の吹奏楽部。日々の厳しい練習と努力によるところが大きいといえよう。そんな吹奏楽部員たちのリアルな物語を彼女たちを支えたコトバたちとともに描く。(『吹奏楽部アナザーストーリー 上巻』(KKベストセラーズ)より引用)

―精華女子高等学校のコトバ
味わった「悲劇」を糧に全国の頂点へ

 

精華女子高等学校吹奏楽部
【写真左から】木部冬羽さん(3年・テナーサックス)、橋村桃子さん(3年・パーカッション)、髙木美雨さん(3年・トランペット)、生野みさとさん(3年・チューバ)
[2019年3月取材]

 

■「熊本の悲劇」を吹き飛ばす精華の「真価」を見せるとき!

 運命の九州大会は8月26日だった。

 前回(前記事参照)は「悲劇」の舞台となった熊本県立劇場の舞台裏で、精華のコンクールメンバー55人は出番を待った。ステージのほうからはライバルの活水の演奏が聞こえてくる。音楽部長・「ミユ」こと髙木美雨たちはその音をなるべく耳に入れないように、小声で課題曲を歌ったり、「頑張ろうね!」と声をかけ合ったりした。

 ライバルである長崎の活水高校吹奏楽部の演奏が終わり、いよいよ精華の出番がやってきた。

 セッティングの事情により、ステージには打楽器から入っていく。反響板のドアが開き、まず最初にステージに入ったのはティンパニを担当する「モモコ」こと橋村桃子だった。

 モモコは満員の客席がざわめき、高揚した空気に満ちているのを感じた。それは、活水が作り出したものだった。きっとすごい演奏だったに違いない。
「どうしよ……怖い……」

 モモコは不安に襲われながらティンパニを運んだ。

 他のメンバーも緊張していた。

 セッティングがすべて終わると、会場にアナウンスが流れる。

「プログラム5番。福岡県代表、精華女子高等学校。課題曲Ⅳ。自由曲、アッペルモント作曲《ブリュッセル・レクエイム》。指揮、櫻内教昭」

 櫻内先生がお辞儀をし、会場に拍手が響いた。与えられた時間は12分間。張り詰めた空気の中、櫻内先生が指揮棒を振り、課題曲《コンサート・マーチ「虹色の未来へ」》が始まった。

 部の生活部長・「ミサト」こと生野みさとはチューバを演奏しながら、櫻内先生を見つめた。いつもはあまり感情を顔に出さない先生が、笑顔でうなずきながら指揮していた。

「櫻内先生、楽しいんかいな」

 ミサトは先生の様子に安心感を覚えた。そして、自分も演奏を楽しめるようになった。

 精華のメンバーは楽器を奏でながら、心の中で自分たちで考えた歌詞を歌った。

 課題曲は練習どおりにできた。続いては自由曲だ。

 クラリネットのソロに導かれ、ゆったりとフランスの童謡《月の光に》のメロディが奏でられる。と、突如トランペットの不穏な響きとともにテロを表す緊迫感のある箇所が始まる。

 櫻内先生は課題曲のときにも増して力強く指揮棒を振った。櫻内先生が感情を露にして指揮するのは本番のときだけだ。練習やリハーサルで熱くなってしまうと、部員たちはきちんと演奏できていなくても「できた気」になってしまうからだ。その代わり、本番だけはリミッターを外し、全身全霊で指揮をす
るのが櫻内先生のやり方だった。

 先生の特別な指揮が、部員たちの音楽をさらに引き出していく。もはや3年前の「熊本の悲劇」も、「活水に勝つ」という勝負の意識も、どこかへ消えていた。精華の55人は、ただただ自分たちにできる最高の音楽を届けようとしていた。

 ミユは夢中でトランペットを吹き鳴らした。途中で美しい旋律を演奏しているとき、ふと頭の中に櫻内先生と小川先生の顔が浮かんできた。

「大好きな先生たちのために、感謝を込めて吹こ……」

 ミユは思った。今、こうして仲間たちとひとつの音楽を奏でられているのも先生たちのおかげだった。

 ティンパニのモモコは客席にいる観客が目に入った。涙を流しながら聴いている人たちがいた。それを見ると、自分も泣けてきた。

「こんなに感動してもらえるんやなんて……。自分たちも最後まで思い切り演奏を楽しも!」

精華女子高等学校・吹奏楽部の練習風景。指揮するのは櫻内先生。