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「殺したいほど憎みます」ジャニー喜多川、最大の危機と内助の功

最も多くのコンサートをプロデュースした・日本のエンタメ王が逝く

 

■「ジャニーズ帝国」を一代で築いた“ジャニー喜多川”という男

 ジャニー喜多川が亡くなった。享年87。ここ数年は入退院を繰り返していたようだし、その死そのものに驚きはない。メディアの反応も、姪にあたる藤島ジュリー景子の社長就任も想定内だ。よくいわれるように、ジャニーズ事務所の経営上のトップはジャニーの姉のメリー喜多川副社長であり、この人の目が黒いうちは、芸能界における影響力もまだまだ維持されるだろう。

 ただ、巨星墜つという感慨は深い。美少年と芸能にこだわり、それをビジネスとして長年成立させてきたことは世界史的にも稀有だ。その60年にも及ぼうとしたマネジメント活動において、最大の危機が31年前の出来事だった。

 昭和63年の11月、OBで元フォーリーブスの北公次が暴露本『光GENJIへ』を出版。ジャニー喜多川の性癖を赤裸々に綴った。

「部屋で一人寝ていると黙ってジャニーさんがもぐりこんでくる。そしていつものようにぬいぐるみを愛撫するようにおれのからだをまさぐってくる」

 さらに、郷ひろみなどもその対象になっていたことをにおわせ、出版当時のトップアイドル・光GENJIらに対し「おれの二の舞だけにはなってくれるな」と忠告したのである。

 その真偽はさておき、少年への同性愛嗜好についてはかねてから噂があり、事務所の草創期に週刊誌で報じられてもいた。それゆえ、ジャニーズに忖度しない側のメディアはこれに飛びつき、事務所は火消しに躍起となったものだ。ちなみに、仕掛け人は田原俊彦のスキャンダルをめぐってジャニーズと対立中だったAV監督の村西とおる。引退して芸能界を離れていた北を引っ張りこみ、ジャニーズ告発キャンペーンに使ったわけだ。

 もちろん、北にとっては復活への足がかりにするつもりでもあった。本の出版直前に、最初の妻と離婚。本が大ヒット中だった平成元年1月には、渋谷でライブを敢行した。その様子を『光GENJIへ』の出版プロデューサー・本橋信宏が書いている。北は楽屋で一升瓶をラッパ飲みして緊張感をほぐしたあと、ステージでいきなりバック転を決めたという。

「ライブが終わってから公ちゃんは『バック転うまくいかなかったな』とこぼしていたが、苦悩の人生を背負った中年男のバック転は、それまでの彼の陰鬱なイメージをいっぺんに払拭させるほどの凄みがあった」(『別冊宝島299 芸能界スキャンダル読本』)

 ただし、この対立は最終的にジャニーズが勝利する。その後、SMAPや嵐が国民的グループになり、その天下は磐石となった。一方、何らかの手打ちが行なわれたのか、フォーリーブスも平成14年に再結成された。全盛期のような人気は望むべくもなかったが、本人はそれなりに満足していたようだ。

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『平成の死: 追悼は生きる糧』

 

鈴木涼美さん(作家・社会学者)推薦!

世界で唯一の「死で読み解く平成史」であり、
「平成に亡くなった著名人への追悼を生きる糧にした奇書」である。

 

「この本を手にとったあなたは、人一倍、死に関心があるはずだ。そんな本を作った自分は、なおさらである。ではなぜ、死に関心があるかといえば、自分の場合はまず、死によって見えてくるものがあるということが大きい。たとえば、人は誰かの死によって時代を感じる。有名人であれ、身近な人であれ、その死から世の中や自分自身のうつろいを見てとるわけだ。
これが誰かの誕生だとそうもいかない。人が知ることができる誕生はせいぜい、皇族のような超有名人やごく身近な人の子供に限られるからだ。また、そういう人たちがこれから何をなすかもわからない。それよりは、すでに何かをなした人の死のほうが、より多くの時代の風景を見せてくれるのである。
したがって、平成という時代を見たいなら、その時代の死を見つめればいい、と考えた。大活躍した有名人だったり、大騒ぎになった事件だったり。その死を振り返ることで、平成という時代が何だったのか、その本質が浮き彫りにできるはずなのだ。
そして、もうひとつ、死そのものを知りたいというのもある。死が怖かったり、逆に憧れたりするのも、死がよくわからないからでもあるだろう。ただ、人は自分の死を認識することはできず、誰かの死から想像するしかない。それが死を学ぶということだ。
さらにいえば、誰かの死を思うことは自分の生き方をも変える。その人の分まで生きようと決意したり、自分も早く逝きたくなってしまったり、その病気や災害の実態に接して予防策を考えたり。いずれにせよ、死を意識することで、覚悟や準備ができる。死は生のゴールでもあるから、自分が本当はどう生きたいのかという発見にもつながるだろう。それはかけがえのない「糧」ともなるにちがいない。
また、死を思うことで死者との「再会」もできる。在りし日が懐かしく甦ったり、新たな魅力を発見したり。死は終わりではなく、思うことで死者も生き続ける。この本は、そんな愉しさにもあふれているはずだ。それをぜひ、ともに味わってほしい。
死とは何か、平成とは何だったのか。そして、自分とは――。それを探るための旅が、ここから始まる。」(「はじめに」より抜粋)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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