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独特の構造を備えたイギリス生まれの歩兵携行対戦車火器PIAT

歩兵を守る必殺の「戦車キラー」

■独特の構造を備えたイギリス生まれの歩兵携行対戦車火器PIAT

PIATをかまえるカナダ第1パラシュート大隊のPIATチーム。同大隊はイギリス空挺部隊レッド・デビルズの一部として第二次大戦を戦った。

 

 第二次大戦前のイギリス軍は、敵戦車から歩兵を守る手段として、砲兵科の対戦車砲と機甲科の歩兵戦車が存在するので心配はないという認識に立っていた。

 ところが実際に戦争が始まってみると、歩兵は歩兵自身で敵戦車から身を守る手段が必要であることが明白となった。もちろん、その目的のためにボイズ対戦車ライフルとHEAT弾頭を備えたNo.68対戦車ライフルグレネードが支給されてはいたが、前者は大きくかさばり大重量の割に装甲貫徹力が低く、後者も装甲貫徹力が低かった。

 そこで新たな歩兵携行対戦車火器を採用することになり、白羽の矢が立てられたのが携行式スピガット・モーター(軸発射式迫撃砲)であった。スピガット・モーターそのものは戦前から陸軍のスチュワート・ブラッカー中佐が研究を続けていたもので、これに特殊兵器開発部MD1のミリス・ジェフリーズ少佐が改良を加えたのである。

 当初、この兵器はジェフリー式肩撃ち砲(Jefferis Shoulder Gun)と呼ばれており、完成度が低かった。しかし改修を重ねた結果、1942年初夏に歩兵用対戦車投射機Mk.I(Projector, Infantry, Anti Tank Mark.I)として制式化され、8月から量産が始まると同時に、名称の頭文字を取ってピアット(またはパイアット)Mk.I(PIAT Mk.I)と呼ばれることになった。

 推進力を持たない弾体を少量の発射薬によって射出すると、その反動で撃発体が後退して再び射撃可能状態になる設計だったが、最初の1発の発射に際しては、撃発体を押している強力なリコイルスプリングを撃発可能状態にまで圧縮しなければならなかった。ところがこのリコイルスプリングの張力がきわめて強く、圧縮する際は、小柄な人物だと怪我をする恐れがあるほどだった。弾体の射距離は約100m(ただし建物などの固定目標を曲射弾道で撃つ場合は約350m)で、そのHEAT弾頭の装甲貫徹力は約100mである。

 PIATは、射手と弾薬手の2名で構成されたPIATチームによって運用され、基本的に1個小隊当たり1チームを擁していた。だが多くの小隊では、予備のPIATを1~2門確保しておき、敵戦車が出現すると、PIATを扱い慣れた一般の兵士で臨時のPIATチームを他に編成して対戦車能力の向上を図った。

 PIATの最大の長所は、ロケットランチャーのバズーカや無反動砲のパンツァーファウストのように後方に爆炎が噴射しないため、狭い室内や塹壕内からの射撃が可能だったことだ。そのため市街戦では、対戦車用のみならず小型の直射砲としても優れた能力を発揮した。

 しかし第二次大戦後は、より優れた歩兵携行対戦車火器が出現したため、1950年に退役している。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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