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葬儀・霊園と紙おむつCMが、平成社会を反映している?

キーワードで振り返る平成30年史

紙おむつも少子高齢化を反映…。

「何を言ってるんだ、ついさっきも流れてたぞ」と反論される方もいらっしゃるかも知れない。そうでした、言葉足らずでした。わたしがここで言いたかったのは乳幼児用の紙おむつ。おそらく今でも流れているのは介護用品や成人用の紙おむつのCMですよね。試みに「紙おむつ」で検索してみると、「紙おむつ 医療費控除」などというのがヒットして、これにも驚かされた。不謹慎のそしりなどどうってことはない。あえて言う。そうか、いまや紙おむつというのは生の象徴ではないのだなと。
 パンパース、メリーズ、ムーニー、それに後発のグーン。これもあえて不謹慎な喩えを用いるが、まるで一時期のタバコやビールのように毎年どころか季節が変わるごとに、次々に投入された新製品とバリエーション。トレパンマンだのムーニーマンだの、温泉に一緒に入れるだの、吸収力がどうだのすぐにサラサラだの。覚えてるよ、覚えてるさ、だってあの頃わたしは昼ドラが大好物で、でも食事しながら見ていると、必ず紙おむつのCMが流れて、慌ててチャンネル変えてたんだから。
 ちなみに、最後に乳幼児用の紙おむつがメディアで大きく話題になったのは、意外と最近のことで平成27年。わずか3年少々前になぜ?と疑問に思うと、なんてことはない、中国人による爆買い、買い占めの話題。そう、じつはメディアで頻繁に回顧されるバブル期よりも、ほんの数年前のこういうのの方が「あったなあ」感は強い。

 紙おむつほど霊園と真対照(造語)ではないけれど、近いところで対照的なのが結婚式場。冠婚葬祭の仲間でもある。こちらのCMも近年はとんと見かけなくなった。それはそうだろう。そもそも結婚式場を運営していた会社が葬儀場にシフトしている。それに若者が結婚し(でき)なくなったと言われてからも久しい。結婚すらしないのに結婚式など挙げるはずもないわけで。まして豪華なそれなど。そのかわりと言ってはなんだが、結婚専門誌のゼクシィは結構頑張ってるようだ。あとネットでは結婚相談所も。これも以前は本を買うとたいていレジ袋に案内が同封されていたっけ。

 こうしてみると平成の間に日本という国が大きく変わったことが改めて実感できる。「もはや日本は先進国ではない、発展途上国だ」なんて言う人がいるけれど、それは違う。だって発展途上国というのは、これから発展していく国なわけで、日本は客観的には間違いなく衰退期にある。あえて言うなら発展完遂国ってところか。
 ただ衰退から今流行のRe- bornという流れもなくはないわけで、衰退が衰退にとどまるのか衰亡になるのか、まさにいまがその分岐点なのだろう。日本の夏は間違いなく終わった。もしかしたら秋も終わって、初冬どころか厳冬の手前にあるのかもしれない。だが間違えなければ冬を越すことはできる。夏と同じ格好で外を歩けば風邪もひく。夏タイヤで雪道やアイスバーンを走れば大事故になり帰ってこられなくなる。冬には冬の暮らし方がある。冬用の身支度、装備がある。既に手遅れの感もないわけではないが、この国に生きる人々、特に権力や発言力のある者たちが、少しでも早く少しでも多く、このことを自覚すれば、まだギリギリでどうにかなるかもしれない。夏に夏の苦しみと楽しみがあるように冬にも冬の苦しみと楽しみがある。例年より一足早い桜便りが届いた今だからこそ、それを強く思うのだった。

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後藤 武士

ごとう たけし

平成研究家、エッセイスト。1967年岐阜県生まれ。135万部突破のロングセラー『読むだけですっきりわかる日本史』(宝島社文庫)ほか、教養・教育に関する著書多数。


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