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意外と知られていない銀行と国債のしくみ:中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義第3回

中野剛志「奇跡の経済教室」最新講義


MMT(現代貨幣理論」について分かりやすく解説した『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室』『全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室』という2冊の本が版を重ねロングセラーに。MMTの最高の教科書としていまも評判になっている。今回BEST TIMESでは中野剛志氏が政経倶楽部で講演した経済の講義を全5回の連載記事にて公開します。最新の経済学の動きや、バイデン政権以降の経済の流れにも触れながら語った貴重な講義。第3回は「意外と知られていない銀行と国債のしくみ」について。


黒田東彦日銀総裁

■銀行はどこからお金を貸しているのか

 

 前回までは、一般に「財政破綻」と呼ばれる三つの現象「債務不履行」「金利の高騰」「ハイパーインフレ」のうち、日本政府の債務不履行は起こりようがないという話、それなら税金はなぜ取るのか、そして何を指針に財政を決めれば良いのかについて説明しました。

 今回は「金利の高騰」があるかどうかを検討をしてみます。

 まず結論から言うと、これはかなり深刻な間違いです。財政赤字によって金利が高騰するということは、ないんです。

 財政赤字による金利の高騰がなぜあり得ないか? それを考える前に、経済学者などがなぜ「財政赤字を拡大すると金利が高騰する」と言っているのかを押さえておきましょう。

 彼らは、こう考えているのです。

 国が財政赤字を拡大して国債を発行しまくると、民間貯蓄で国債が買われる。その結果、民間貯蓄が減って、資金不足になって金利が上がる。

 こういうわけです。

 ところが現実を見てみると、前回の表で示したように、日本はこんなに債務が累積して国債を発行しまくっているのに、ずっと金利が低いままです。

 それを言うと、経済学者はみんな「いや、今はまだみんなが貯蓄過剰だからいいですけれど、だんだん少子高齢化で貯蓄が取り崩され、貯蓄がなくなっていく。そうしたら国債を買えなくなる。そうすると金利が上がってしまいます」と、こう説明するわけです。要するに、「民間の貯蓄が財政赤字をファイナンスしている」と言うわけですね。

 この根本にあるのは、「銀行が集めた民間預金で、国債を買っているんだろう」という考えです。「預金」すなわち民間の貯蓄を原資に国債を買っているから、あまり国債を買うと民間の貯蓄がなくなってしまうのではないか、という考え方をしているわけです。

 じつは、これは、根本的に間違った考え方です。

 そもそもの間違いは、かなり深刻なところにあります。それは「銀行の融資の仕組み」が誤解されているということです。

 一般には、銀行は個人や企業から預金を集めてきて、それを元手に貸し出しを行っていると思われています。つまり、我々が日常生活で「中野、金貸してくれ」とか先輩に言われて(普通それでは貸しませんけれど(笑))、「しょうがないですね」とか言って手持ちのお金を貸す。それと同じように銀行も手持ちの資金を借り手に貸していると思われているわけです。

 ところが、恐るべきことに、銀行はそんなことはやっていないのです。

 

次のページ銀行はお金を貸すことによって、お金を生み出す。これを「信用創造」と言う

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中野 剛志

なかの たけし

評論家

1971年、神奈川県生まれ。評論家。元京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治思想。96年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。01年に同大学院にて優等修士号、05年に博士号を取得。論文“Theorising Economic Nationalism”(Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞受賞)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『日本の没落』(幻冬舎新書)など多数。


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