■家族、ヘルパー、ケアマネ、職員、役所…様々な視点からリアルを描く

『ヘルプマン!』の良さは、視座が豊富なことだ。

 家族、ヘルパー、ケアマネージャー、介護施設職員、役所の担当者など、介護に携わる人々にもさまざまな職業があり、それぞれの立場から見た現場の問題点や、介護の魅力が描かれてゆく。世話する側だけでなく、認知症になっていく人の側から描いた回もある。

 たとえば、あるケアマネージャー(介護支援専門員)が、訪問先の老人に「蛍光灯を替えてくれ」と頼まれる。しかし、ケアマネージャーは生活介助に手を出してはいけないことになっているので、それはヘルパーの仕事ですと断る。

 するとケアマネが帰った後、老人は自分で蛍光灯を替えようとしてイスから転落。腰椎を骨折して入院してしまう。ケアマネージャーはどうするのが正解だったのか、悩み、苦しむ。

 排泄についてのエピソードがきちんと描かれていることも、この作品をリアルにしている。ぼく自身も介護を経験してみて、相手が排泄を自力でできるかできないかで介護のハードさは大違いだとわかった。

 ただし、そこで安易におむつを使うと、それもまた人によっては病状悪化の元になる。おむつの中に排泄することに抵抗があると、便を我慢してそこから便秘になり、重篤な状態へ進行することがあるからだ。お年寄りにとって便秘は深刻な症状である。

 また、おむつを履かせることは、人間としての尊厳を傷つけることにもつながり、いくらそっちのほうが世話が楽だからと言っても、相手の気持ちを無視して強要するべきではない、といった難しいテーマも描かれる。

 身に詰まされたのは、息子が父親を介護することになり、父親を虐待していくエピソードだ。

 半身不随の父を世話をしている母の手助けをしたいという理由で、会社を早期退職した55歳の息子。しかし、過酷な毎日に母が倒れてしまい、息子がひとりで父の介護をしなくてはならなくなる。プライドの高い父は、息子を怒鳴りつけるばかりで、言うことを聞かない。やがて息子は自分を見失い、父親の手足を拘束。そこから虐待へと進んでいく。

 なんだこれ、状況はうちとそっくりじゃないかと、読みながら嫌な汗が出た。ぼくがそっちへ進まずに済んだのは、たぶん運が良かっただけだと思う。何か扉がひとつ違えば、どこへ向かったかはわからない。

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