ヒントは古代ギリシア。「自分らしい生き方」をロボットやAIが実現する理由 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

ヒントは古代ギリシア。「自分らしい生き方」をロボットやAIが実現する理由

自律的な生き方を達成する。

■人間が本当の意味で自由に生きるためには

 現代を生きる私たちも、近代人と同じように、労働を美徳としている。だが、労働している時に「働かずに好きなことを自由にできたらいいのに……」と思うことはないだろうか。そう考える時、やはり人は労働に拘束されていると言えるだろう。

 ロボットの語源はチェコ語で強制労働を意味する言葉にあるという。古代ギリシア人は、人間を奴隷として強制的に労働させたが、現代では誰かを奴隷として賦役することは許されない。だが、物であるロボットやAIを、古代の奴隷のように、人間の代わりに労働させることはできるだろう。

 高性能ロボットやAIが、現代の自動車やパソコン並に手軽に入手できるようになり普及することで、人間が労働から解放されたとしたら、どのようなことが起きるだろうか。掃除、洗濯、炊事といった家事労働からの解放だけでなく、生産や輸送、事務作業などから人々が解放されれば、多くの人は今までよりも自由に時間を使って生きられるようになるだろう。家族と過ごす時間や、子育ての時間に、これまで以上に多くの時間を費やしたり、趣味や習い事で、自分を磨くために時間を作ったりすることもできる。公共のためのボランティア活動などにも積極的に参加するようになるかもしれない。

 一方で、人間は自堕落な存在でもある。誰しも、楽をできるなら楽をしたいと考えるものだ。一日中、食っちゃ寝の生活を送る人も多くなるだろう。だが、自由な時間を何もせず、自堕落に過ごすよりも、何かのために時間を費やして充実を感じたほうが、より幸福な生き方と感じられるようになるのではないか。だから、全ての人が自堕落な生活に陥るということはないだろう。

 楽をしたいが故の自堕落な生活は、欲望に拘束されている点で、自由な生き方ではないと言える。食っちゃ寝の生活を送ることができるにも関わらず、敢えて欲望の拘束を自らの意志で解き放ち、自律的な生き方をすることが、より人間的な自由なのだ。だから、もし、ロボットやAIが人間の労働を全て受け持ってくれるのであれば、人間は本当の意味で自由な生き方ができるようになる可能性がある。

 ただ、現実的には現代の社会で生きるにあたって、生活のための稼ぎがなければならない。労働をする機会がなくなれば、労働力以外に何も資本を持たない多くの人々は、どのように価値を生み出せば良いのか。一つの方法として、全ての人の「生存権」に対して一律の額を定期的に給付するという「ベーシック・インカム」を実施するという考え方もある。だが、そのための財源はどうすれば良いのかという問題も出てくるだろう。

 いずれにしても、今後、ロボットとAIの普及に対して、人間は労働の面から向き合っていかなければならないのは確かだ。遠くない未来に、人間のほうがロボットとAIの奴隷にされてしまわないためにも、考えなければならないことは山積みにされている。

KEYWORDS:

オススメ記事

大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


この著者の記事一覧