長谷川慶太郎の『麻雀・カラオケ・ゴルフは、おやめなさい』を真に受けるな!【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第20回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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長谷川慶太郎の『麻雀・カラオケ・ゴルフは、おやめなさい』を真に受けるな!【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第20回

【連載】厭世的生き方のすすめ! 第20回


趣味は人生を豊かにする。人間関係も広がるし、精神的な刺激を受けることにより、若々しさを維持し、充実した生活を送ることができる。しかし、充実などしたくない厭世的な生活を送るわれわれは、趣味をどのように捉えればいいのか。厭世的な多趣味で知られる作家・適菜収氏が趣味の本質を語った。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊  百の兆候』として書籍化された。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。


藤子・F・不二雄

 

◾️藤子・F・不二雄に学んだこと

 

 昔、『麻雀・カラオケ・ゴルフは、おやめなさい』という経済評論家・長谷川慶太郎の本があった。しかし、麻雀・カラオケ・ゴルフだって、バカにしたものではない。そこで発生したコミュニケーションが、人生を切り開くこともある。趣味はたくさん持っているほうがいい。趣味は心を豊かにさせる。

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 ではコミュニケーションが嫌いな、心を豊かにしたくない、厭世的な生活を続けるわれわれはどのような趣味を持てばいいのか。他人と関わらず一人でできることがいい。麻雀ならネット麻雀、カラオケなら一人カラオケ、ゴルフなら練習場に行く。一人でラウンドできるゴルフ場もあるらしい。

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 私は厭世的な趣味として「あやとり」にヒントがあると思う。あやとりは一人でできるし、なんの生産性もない。「流れ星」や「ほうき」ができたところで、だからどうしたという話。なんの役にも立たないのは大切なことだ。のび太の趣味をあやとりに設定した藤子・F・不二雄は凄いと思う。

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 昔、某酒場に木ノ内さんという常連客がいた。彼の趣味は全国の郵便局を訪れ、1円玉を貯金し、その通帳を集めることだった。酒の席なので私は黙っていたが、くだらないにも程がある。その通帳の山を見て木ノ内さんがほっこりするためだけに、郵便局員の仕事を増やし、国民の税金(当時は国営だった)をドブに捨てたわけだ。

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 木ノ内さんは死んでしまったが、その通帳の山はどうなったのか。全部降ろすのも手間なので、遺族が捨てた可能性が高い。そう考えるとなかなか厭世的で哲学的な趣味ではある。

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 余談だが世の中に存在する膨大な写真(プリントしたものもパソコンに入っているものも含めて)について考えると不思議な気分になる。人は死んでも写真は残る。時間の経過により、誰が何をやっているのかがわからない写真が世の中に堆積していく。

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 私は昔、江戸前寿司の系譜を追うことを趣味にしていた。記憶に強く残っているのは厭世的な気分になる寿司屋である。たとえば新橋にあった第三春美鮨。湯呑が使いづらい焼き物。店主の趣味を客に押し付けてくる。新子が出てきたとき、「新子とはなにか?」と書かれた紙切れを一緒に出された。萎える。

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 武蔵小山のいずみは、つまみが出るたびに店主の説明(ほとんど自慢話)がはじまる。それが終わるまで箸をつけてはいけないらしい。焼トン屋に喩えれば東十条の埼玉屋並み。

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 下北沢の福元。「この時期、いい鳥貝が入らなくて」と言いながら、鳥貝を出してきた。だったら出すなよ。

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 駒込のS寿司。店主はランニングシャツ姿。私「白身をください」。店主「ないねえ」。私「それなら赤身をください」。店主「ないねえ」。醤油皿を見たら、小さなゴキブリが泳いでいた。オヤジ曰く「羽根がついた虫がいるねえ」。素晴らしい。

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 早稲田のK鮨。店主がいつもカウンターでプレイステーションをしている。アジが腐っていたので文句を言うと、クンクンと臭いを嗅ぎながら「じゃあ、こっちのアジはどうだろう」と出してくる。 私が食べるのを拒否すると、「さっきのお客さんにアジを出したけど、悪いことしちゃったなあ」だって。目の前の私には悪くないのか? 店を出た後に腹が痛くなったので、店に戻って「腹痛くなったからカネ返してよ」と言うと、「痛くなるわけがない」と。 私が「アジ、腐っていただろ」と言うと「あれは腐っていたのではなくて悪くなっていたんだよ!」。 素晴らしい。 

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 庚申塚に看板が傾いているボロボロの寿司屋があった。中に入ると、ステテコを穿いた爺さんが出てきて、「悪いな。今やってないんだよ」とのこと。いつ寿司が食えるのかと聞くと、「もう20年もやってないからなあ」。「では、また来ます」と言って店を出た。その後、23回再訪。

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 大塚のSは、魚も寿司も素晴らしいが、一番いいのは愛想がないところ。客から話しかけられても、あまり相手にせず、面倒になると奥の厨房に引っ込んでしまう。だから、愛想を求めてやってくる客がいない。世の中にはいろいろな種類の人間がいる。会話を求める客、寿司種の産地の説明をしてほしい客、蘊蓄を披歴したい客……。私はそういう客がいる寿司屋は嫌なので、なるべく活気のない、厭世的な寿司屋に行くことが多くなった。

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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