イスラエル・イラン“6日戦争”はなぜ起こったのか? 見過ごされがちな宗教的・歴史的要因と、トランプとイランの最大のディールとは【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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イスラエル・イラン“6日戦争”はなぜ起こったのか? 見過ごされがちな宗教的・歴史的要因と、トランプとイランの最大のディールとは【中田考】

イスラエル・イラン戦争を理解するために。トランプによる「強引な停戦」は今後どうなるか?

イスラエル・イラン軍事衝突によってレバノン起こったイラン支持のデモ(2025年6月25日)

 

 本稿では、現在進行中のイスラエルイラン戦争の背景とその意味について、純な立構や現代政治のみならず、より深い史的的な脈絡を踏まえて理解することの重要性を論じます。

 現在の家体制としてのイスラエル(1948年建)とイラン(1979年のイスラム革命によって成立したイスラム共和)は、千年にわたる中東の複史の一部に過ぎません。しかしながら、出事を三千年前まで遡って理解しようとするのは現的ではありません。本稿では、両国の直接的な立に至った要因と、その背後にある見過ごされがちな宗・歴史的係を明らかにすることを目的としています。

 

1. 革命以前の親イスラエル的イラン

 

 1979年のイスラム革命以前、イラン(パフラヴィ朝)はアメリカの支援を受けて、中東における「岸の憲兵」としての役割を果たしており、イスラエルとも安全保障上の協力係にありました。この体制は、1953年にモサッデグ首相をアメリカCIAとイギリスMI6がクデタで追放し、西側の石油利を確保したことに端をしています。冷下においては、イラン、イスラエル、トルコ、サウジアラビアが西側のソ連反共防衛ラインを構成していました。そのため、イランとイスラエルは略的な同盟であり、ユダヤ系ディアスポラユダヤ人が故郷を失い世界各地に離散して生活をしている状態またその集団)を受け入れる姿勢も見られました。

 

2. イスラーム革命と反イスラエル化

 

 しかし、1979年のイスラム革命によって、イランは「反米反イスラエル」を是とする体制へと換しました。革命の象的スロガンが「アメリカに死を、イスラエルに死を」であったことにもその姿勢が表れています。この換は、かつて同盟係にあったイスラエルにとっては180度の化であり、それ以降イランはイスラエルを大中東地域における主要敵と見なすようになりました。

 このように公然と敵視されながらも、アメリカとイランの間では全面戦争生していません。たとえば、1979年のアメリカ大使館占事件(444日間の人質事件)も、最終的には軍事衝突には至りませんでした。一方で、イスラエルとの戦争が革命後45年を他ならぬ今になって起こったその背景を明するためには、なる「反米反イスラエル」では不十分であり、より深い理由を探る必要があります。

 

3. なぜイスラエルが特別に敵視されるのか?

 

 アメリカと同パフレヴィ王制制を支援していたはずの西側諸の中で、なぜイスラエルだけが執拗に敵視されるのでしょうか。この問いを無視すると、「反ユダヤ主義」という純な明に流されがちです。しかし本稿では、それを避け、イスラエルとユダヤ、そしてイランとの係を深く掘り下げていきます。

次のページユダヤ人とイランの深い関係

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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