「ハラスメント」「キャンセル・カルチャー」「マインド・コントロール」 言葉の定義を知らず、濫用して騒ぐバカなネット民に告ぐ!【仲正昌樹】
頻繁に叫ばれ、社会を住みにくくしている言葉がある。「ハラスメント」「キャンセル・カルチャー」「マインド・コントロール」だ。そもそも、それぞれ言葉の定義をどれだけの人が知っているだろうか? 私たちの世の中を生きづらくしているのは、それら言葉の濫用にある! 今まさに注目の書『ネットリンチが当たり前の社会はどうなるか?』(KKベストセラーズ)著者・仲正昌樹氏が、社会を生きづらくする言葉の濫用者に警告する。

◾️「ハラスメント」とはそもそもどういうものか?
「ハラスメント」はもともと「いじめ」とか「嫌がらせ」を意味する英語であり、法律や組織のルールとして明文化しにくい問題、セーフ/アウトを判定しにくい人間関係をめぐる問題に対処するために用いられるようになったものだが、近年この言葉は濫用されがちだ。“ハラスメント”の疑いをかけられた有名人が、社会的に抹殺(キャンセル)されることがしばしば起こる。「ハラスメント」とはそもそもどういうものか考えてみよう。
私はさほどの有名人ではないが、ネット上で絡まれることはしょっちゅうある。全く根拠のない、筋が通らない言いがかりに対し、「バカだな」と返すと、どこかの学生・院生らしき、あるいは、そう装っている人間が、「教授がバカだと言った。アカハラだ」と言い出すことがある。アカハラをどう捉えているのだろうか。自分が教えたことのない、どころか、どこの誰とも分からない匿名の人間に対してどうやって“ハラスメント”をするのだろうか? 大学教授は、学生を自称する匿名の人間を叱責したら、それだけで“ハラスメント”になるとでも考えているのか。
更に言えば、先日、そういう連中の中に、わざわざ私の勤め先に、「仲正はネット上で私たちにバカ、バカ言っている。学生にも言っているに違いない。アカハラだ。調べなさい。ちゃんと証拠を取って…」と投書してきた奴がいる。妄想を膨らませた投書にすぎないのだが、そういう妄想の投書があったとポストしたところ、エホバの証人の元二世信者を名乗る人物が、「これはハラスメント相談のはずだ。金沢大学は本人に相談内容を漏らし、犯人捜しをさせている」という更に妄想に輪をかけたことを言い出した。大学と全く関係のない人間が、何の根拠――本人はネット上の私の発言傾向を根拠だと思っているのかもしれないが――もなく、「こいつは●●しているに違いない。調べろ」と投書したのを、ハラスメント相談とか内部告発として扱わねばならないとすると、とんでもないことになる。社会の仕組みを知らないネットの暇人の中には、「仲正には、潔白だというなら、堂々と調査を受ければいいではないか」、という奴もいたが、それは組織の中でちゃんとした仕事をしたことのない人間の発想だろう。
上記の私の経験はかなり極端な例だが、こうしたネットで蔓延る「ハラスメント」の水増しから逆算する形で、本来の「ハラスメント」とはどういうものか考えることができる。先ず、「ハラスメント」が成立するには、最低限誰から誰へのハラスメントなのか人物を特定しないと、意味をなさないだろう。ハラスメントを受けたとされる人の実名を公にする必要はないが、どこの誰か分からない、名前を知らないだけではなく、性別、年齢、職業、国籍、居住地域も知らない匿名の人間に対し、「ハラスメントを行なった」と主張するのは無意味である。確認しようがないのだから。