さて、冒頭で紹介した山本氏の「男の修業」ですが、実のところ出典は不明とされています。『山本五十六のことば』(稲川明雄著)によれば、「巷間に伝わった山本五十六の言葉で、猛訓練に苦しむ兵のために書いてやったという」「伝聞によると軍艦のトイレに貼って、兵がみた」とのこと。軍人としての心構えとしてだけでなく、男の生き様や美学としても読み解ける、静かでありながらも力強い言葉が綴られています。
 ただ現代においては、これを単なる男のロマンチシズムや、どこか男尊女卑的な懐古趣味として捉えてしまうと、大きく読み誤ってしまうと筆者は考えます。男がどう、女がどうではなく、人間として備えておきたい覚悟として解釈し、心に強く留めておくべき言葉として読むのが賢明ではないでしょうか。人格的な陶冶を望むのであれば、まずは目の前にある課題に誠実に取り組むべきである。一端にものを申したければ、まずはやるべきことを自分の力できちんとこなし、大人として自立することが肝要である……そんな、普遍的な箴言として解釈するのが「男の修業」の味わい方として正しいように思います。
 そもそも山本氏は、多様な価値観を尊重し、バランス感覚を持ってそれらを俯瞰的に捉えることができる人物でした。決して封建的で、画一的で、男尊女卑的な価値観に凝り固まった古くさい軍人ではなかった、といえます。
 そんな山本氏の柔軟なモノの見方、バランス感覚をうかがい知ることができる、こんな言葉が残っています。
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実年者は、今どきの若い者などということを絶対に言うな。
なぜなら、われわれ実年者が若かった時に同じことを言われたはずだ。

今どきの若者は全くしょうがない、年長者に対して礼儀を知らぬ、道で会っても挨拶もしない、いったい日本はどうなるのだ、などと言われたものだ。

その若者が、こうして年を取ったまでだ。

だから、実年者は若者が何をしたか、などと言うな。
何ができるか、とその可能性を発見してやってくれ。
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 この言葉からもわかるように、山本氏は後進をいかに育てるか、人材をいかに活用するべきか、といった事柄を常に意識していた人物でもありました。 次回は、山本氏の語る人材育成の要諦にフォーカスしてみたいと思います。