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ソ連の快速戦車「T-34」のルーツはアメリカ製戦車だった!

ティーガー、パンター、エレファント・・・強力無比なドイツ戦車群と戦い抜いた「ロージナ(祖国)」と呼ばれた傑作中戦車

BT-5。BTシリーズの初期の型式は事実上クリスティー戦車のマイナーチェンジ・バージョンといってもよく、後期の型式になるにしたがってソ連の独自性が強まっていった。写真のBT-5も車体部の側面形はクリスティー戦車に酷似している。

■T-34のルーツはアメリカ製戦車にあり!

 こうして誕生したT-34には、当時の戦車としては最先端といってもよい設計が施されていた。既述したように同車はT-32の改良型だったが、T-32には、さらにルーツともいうべき戦車が存在した。

 実はソ連における快速戦車、つまりT-34へと続く系譜の源流は、アメリカの天才的なエンジニア兼発明家ジョン・ウォルター・クリスティーが設計した、クリスティー戦車の通称で呼ばれる高速戦車に発している。同車には、完成した年号が冠せられた何種類かの型式が存在し、これらのうちのどの型式が原点だったかについてはいくつかの説があるため特定は避けるが、いずれの型式も、構造的にはほぼ同様でマイナーチェンジの域を出るものではなかった。
ソ連の戦車開発関係者は、このクリスティー戦車に着目した。ところが1930年当時のアメリカは兵器の輸出審査が厳しかった。そこで砲塔を撤去し、農業用トラクターの名目で予備部品とともに2両がソ連に送られ、これを下敷きとして開発されたのがBT戦車シリーズである。

 

 クリスティー戦車には、傾斜した装甲板に徹甲弾が当たると弾体が滑って貫徹しにくくなることに加えて、「見かけの装甲厚」が向上して耐弾能力が向上するという、海軍では以前から知られていた避弾経始の概念がその装甲に採り込まれていた。当時の戦車設計においてはきわめて先進的な着想で、これはもちろんBT戦車にも反映されている。

 だが、クリスティー戦車には最大の特徴があった。それは、大直径の転輪とストロークの長いコイルスプリングのサスペンションを組み合わせた、いわゆるクリスティー式サスペンションが採用されていたことだ。そしてその転輪の一部が駆動輪化されており、履帯を外した状態での高速走行が可能だった。
当時の履帯は技術的問題から破損しやすかったが、この車輪走行(装輪走行)の機能が付与されたおかげで、履帯が抱えた弱点が解消されただけでなく、主機に軽量大出力の航空エンジンを転用した結果、装輪走行時には時速70~75kmという、当時の戦車としては驚異的な高速を発揮した。

 もちろんBT戦車も、これらクリスティー戦車の特徴をそっくり受け継いでいた。だが、装軌と装輪の両方を可能とする駆動系は複雑で製造コストが高く整備に手間がかかり、加えて、装甲厚が薄い点と火力も世界水準に遅れをとりつつある点が、同車の弱点としてクローズアップされた。

 そこで、かつてBT戦車シリーズの改良に携わったため同車を熟知しているコーシュキンは、同車の弱点を解消したうえでさらなる高性能を目指し、T-32からT-34へと連なる設計を完成させたのである。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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