■経済界の意向に振り回される労働者たち

橋本…要因は複合的です。グローバルな要因から日本国内の要因まで様々ありますが、私が一番大きいと思っているのが、非正規労働という働き方が“一般的”になったことです。

トオル…働き方や働く環境が変わったということですね。ちなみに“一般的”ってどういう意味ですか?

橋本…昔、非正規労働者は個人の日雇いや住み込みの家政婦さんなど一部にはいましたが、数としては少ない存在でした。それが高度経済成長期以降「パート主婦」が現れ、以降は彼女たちが非正規労働者の代表になっていきました。彼女たちなぜ働くかと言えば、家計の足しにするため。決して家計の中心ではありません。働く期間も、子育て期や、子供が大学に行っている間、住宅ローンを返している間、など人生の一期間に限られていました。

シズカ…昔の非正規労働は、限られた人たちが、限られた期間にするものだったということね。

橋本…それがバブル期以降、働き手の範囲がどんどん広がり“一般的な”ものになっていった。そして、学校を卒業してから一度も正社員になることなく、非正規で働き続けるという人たちも現れるようになりました。

トオル…なるほど。なにかターニングポイントはあったんでしょうか?

橋本経済界の方針転換です。日本企業は長きに渡り年功序列に基づいた終身雇用制度を大事にしていましたが、バブル経済を機に経済界は大きな方針転換をしました。象徴的なのは、1995年に日本経済団体連合会が出した「新時代の『日本的経営』」という報告書です。その内容は終身雇用の正社員は一部に限定して、専門職・技術職は有期雇用の年俸制に、そして一般職・技能職・営業職など現場で働く人は期限付きの雇用やパート・派遣に置き換えるというものでした。結局、専門職・技術職の有期雇用は広まらず、その他の一般職の非正規化がどんどん進んでいった。しかも政府は「新時代の『日本的経営』」を後押しする形で規制緩和をすすめたのです。非正規雇用の範囲を拡大できるように、派遣労働なども解禁しながら。その流れが今日に至っています。

シズカ…派遣は政府が色々な職業で認められるように、規制緩和してきたんですよね。

トオル…パートに対する規制はどうだったんだろう。

橋本…それがパート・アルバイトに関してはそもそも規制が存在しなかったのです。つまり賃金や雇用を保障する取り決めが全くなかった。政府も放ったらかしにしていたんです。

シズカ…ひどい!もしかして「パート」=主婦だから、そんな保障をしなくてもうるさくないとでも思ったの!?

橋本…残念ながらそういうことです。「パート主婦」ですから、夫の収入がある。賃金が安くても構わない、たとえクビになったとしてもそれほど困らない。そうした価値観があったので、パート・アルバイトといった短時間労働者の権利というものはこれまで全く考えられてこなかったんです。

シズカ…あきれて物も言えない! 結局国って働いている人のことをちっとも考えてないんだね。

トオル…ホント。なんでそんな簡単に経済界の意向に従っちゃったんだろう。