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出版界は「エンドユーザー」を絶対に離すな

第2回 「さわや書店」松本大介 後編

「書店が街から消えていく」そういわれて久しい。出版不況や、電子書籍など、リアル書店をめぐる環境は年々厳しくなっているが、このままリアル書店は街から消えてしまうのか。「いいえ書店はなくなりません!」今後、書店はどうあるべきなのか。 従来の枠組みをこえ、新たな試みを模索する現場の書店員の声をお届けする。
数々の仕掛けで注目を集める盛岡市さわや書店。フェザン店・店長 松本大介さんより、後編。

本の業界は枯山水?

至るところに手書きPOPが掲げられるフェザン店

 前回は現状を踏まえたうえで、自店の取り組みの問題点を書かせてもらった。では、自分の思い描く業界の未来とは、どんなものだろうか。情報の伝達手段としてモバイル機器に劣ってしまった本が、価値を持つための未来。その未来についての考えがまとまらないままに、商業施設の「フロア会議」に出席した。

「ORIORI produced by さわや書店」が出店する3階フロアは、真ん中にあるエスカレーターを囲むように7店舗が軒を連ねる。当店の他に、旅行商品、メガネ、コンタクト、マッサージ、スーツ、スニーカーを扱う店と多種多様だ。僕の目から見ると、どれも青々とした芝生に見える。比べてこちらは日本庭園、しかも枯山水といったところかと各店の店長の話を聴きながら自嘲する。

 1時間の話し合いのなかで、単品で勝負する業界の必死さを垣間見た。どの業種も掲げた看板以外の商品やサービスは扱っていない。たとえば世界大戦の勃発により旅行が、レーシック手術や遺伝子治療によってメガネやコンタクトが、IT企業の風土が隅々にまで広がってスーツが、東京オリンピックによるアベベのリバイバルブームによって靴が、革新的な健康本の出版によってマッサージが、といった需要そのものが消えてしまうような理由が起こると、彼らの業界は立ち行かなくなる。枯れたら終ってしまうオールグリーンの芝生に、不安はないのだろうか。

 本は、それ自体では単品のようにも思えるが、ジャンルが多岐にわたるから前述した職業よりもリスクが少なく思える。好景気には、消費者が趣味や文化に向けた眼を補完する役割の本を売ればよいし、不況には投資の本や資産形成の本を売ればよい。そう言った面では、本という商品の形さえ残れば、時代の波に左右されない強みを持つように思う。

 長い年月を耐え忍んできた我々の業界、「枯山水」には様々な構成要素がある。種類豊富な木々や岩石によって空間を演出し、調和によってワビ、サビを生じさせることができる。そこに活路があるのではないだろうかと考えた。そうだ。書店の未来はワビ、サビにあるに違いない。

「ORIORI produced byさわや書店」で本とそれ以外の商材を扱ってみて、来店する外国人客の比率に驚いた。本だけ扱っていると、言語的にどうしても日本語が中心となり、国内需要が主であるから、なかなか気づかなかったことである。駅ビルという立地もあるだろうが、明らかに旅行客と思われる彼らは、雑貨、CDとともに本も買ってゆくのだ。ジャンルの多様さが生み出した「ジャパンカルチャー」、存在としての「本」に価値を見出し、彼らはお土産として本を買ってゆく。その売り上げはバカにできない。平均すると一日の売上の3%ほどを占める。だから2020年までは、外国人に向けた売り場はつくるべきだと考え、現在それに着手しているところである。

 ただし、それはあくまでトレンドとしての話だ。枯山水のワビ、サビを「So Cool!」で終わらせないためには、やはり国内需要に向けて何か面白いことを企画しなくてはならないだろう。枯山水で水芸を見せるような意表を突く発想が必要だ。

 
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松本 大介

まつもと だいすけ

1977年生まれ。岩手県盛岡市出身。都内の大学を卒業後、2001年さわや書店入社。さわや書店本店、フェザン店の勤務を経て、2017年5月19日に盛岡駅、駅ビルフェザンに2店舗目としてオープンした〈ORIORI produced by さわや書店〉の店長を務める。現さわや書店フェザン店店長。

『思考の整理学』外山滋比古(筑摩書房)、『震える牛』相場英雄(小学館)、『限界集落株式会社』黒野伸一(小学館)など多数の書籍がベストセラーとなるきっかけをつくる。

 


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