「ゲス不倫にアナーキズム、ヘンなガイジン、ヌード、日銀。事始め人の退場劇」1923(大正12)年 1924(大正13)年【連載:死の百年史1921-2020】第3回(宝泉薫) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ゲス不倫にアナーキズム、ヘンなガイジン、ヌード、日銀。事始め人の退場劇」1923(大正12)年 1924(大正13)年【連載:死の百年史1921-2020】第3回(宝泉薫)

連載:死の百年史1921-2020 (作家・宝泉薫)

■1924(大正13)年

ヌードも銀行も薩摩から始まった

黒田清輝(享年57)松方正義(享年89)

「近代洋画の父」と呼ばれた黒田清輝は、大正13(1924)年、尿毒症で亡くなった。享年57。代表作の『湖畔』は印象派の影響を受けた穏やかな画風だが、その生涯はやはり、開拓者にふさわしいものである。

黒田清輝

 フランス留学中に描いて賞も獲った裸体画を持ち帰り、自身が審査官を務める博覧会に出品したところ、公序良俗に反するとして非難を受けた。しかし、美術界の革新のためにも出品をやめることはなく、友人でもある画家への手紙にこんな決意を書いている。

「どう考へても裸体画を春画と見做す理屈が何処に有る(略)兎も角オレはあの画と進退を共にする覚悟だ」

 そんな黒田は晩年、貴族院議員になった。政治がやりたかったわけではなく、養父が亡くなったあと、その立場を継承したかたちだ。彼は薩摩藩士の家に生まれ、同じく藩士だった伯父の養子となり、じつはフランス留学も法律を学ぶためだった。途中で画家に転じることを認めてもらった以上、それなりの義理も果たさなくてはならなかったわけだ。

 薩摩といえば、この年、政治家の松方正義も他界している。こちらも藩士出身で、総理大臣や大蔵大臣を何度も務めた。日本銀行の設立や金本位制の確立などを行なう一方で「松方デフレ」という大不況をもたらしたことでも名を残している。子宝にも恵まれ、総勢26人。徳川家斉の53人にはさすがに及ばないが、将軍でもないのに大変な精力と甲斐性だ。呼吸不全のため、89歳の天寿を全うすると、国葬が営まれたほどの大物である。

松方正義

 ただし「憲政の神様」と謳われた尾崎行雄には、

「若しも薩摩人でなかったら、総理大臣には、無論成れる人ではなかったろうと思います。先輩が皆没した為、回り回ってついに松方公が薩摩を代表することになったのであります」

 と、皮肉られてもいる。かといって、薩摩出身でない人生など自分では選択しようもないわけで、松方にはちょっと気の毒な気もするが……。そういわれても仕方ないほど、薩長が幅を利かせる時代ではあった。

(宝泉薫 作家・芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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