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アジア独立で活躍した日本軍インテリジェンス・チーム

「インテリジェンス・ヒストリー」は日本では未成熟 シリーズ!日本人のためのインテリジェンス・ヒストリー⑧ 

インテリジェンスの戦いは今なおロシアや中国共産党政府、そして北朝鮮との間で続いている。そこで2012年に発足した第二次安倍政権は戦後初めて日本としての国家戦略を議論する国家安全保障会議、通称日本版NSCを創設し、その下に世界各国の内情を調査・分析する対外インテリジェンス機関を設置しようとしている。その背景には、北朝鮮による拉致問題に取り組む中で、北朝鮮の工作員たちによる対日秘密工作に対抗する必要性が生まれ、アメリカ、イギリス、韓国など外国の対外インテリジェンス機関との連携を迫られるようになったことがあるはずだ。江崎道朗氏の新刊『日本は誰と戦ったのか』より、氏の分析を紹介する。

日本の未来のために広げるインテリジェンス・ヒストリー

インド国民軍を創設した藤原岩一

 ご本人に確かめたわけではないのですが、安倍首相が対外インテリジェンス機関の創設に強い関心を持っているのは、おそらく祖父、岸信介首相の影響もあったのではないかと思っています。と言うのも、私がインテリジェンスについて強い関心を持つようになったのは、岸首相が関係しているからです。

 1980年代の学生時代に「先の戦争」について関心を抱いた私は当時、存命中の戦争経験者たちから話を聞くようになったのですが、その過程で日本軍のインテリジェンス機関に関与した人たちと偶然知り合うことになりました。  

 アジア独立を支援する立場から戦時中に「インド国民軍(INA、Indian National Army)」創設を支援し、インド独立のきっかけを作った藤原岩市や、インドネシアやマレーシア、ミャンマー独立を支援した金子智一、奥田重元、中島慎三郎たちです。

  彼らは戦後、民間人でありながら岸首相の下でアジア諸国との国交樹立「秘密」交渉を担当しただけでなく、福田赳夫総理や安倍晋太郎外相らのもとでソ連や中国による「革命の輸出」に対抗し、対ASEAN秘密交渉を担ってきました。 

 彼らによれば、岸首相は本気で対米自立を考えていましたが、結果的には日米安保条約の改訂で終わってしまいました。
 そこでせめてインテリジェンスだけでも立て直したいと考えた岸首相は1950年代前半に三菱電機会長の高杉晋一(1969年に海外経済協力基金総裁に就任)ら経済界の協力を得て、戦時中にアジア「工作」を担当した旧軍関係者たちを集めて民間のインテリジェンス・チームを創設したのです。

 彼らが担当したのは、主として東南アジア諸国との国交樹立と経済協力の「裏」交渉でした。これらの国との経済関係を強化することで将来的には軍事的にも対米自立を目指そうとしたのです。

 戦後、賠償問題がありながらアジア諸国との国交樹立や経済協力が円滑に進んだ背景に民間インテリジェンス・チームによる「秘密工作」活動があったことは、今後きちんと検証されるべきでしょう。

 ちなみにこういった工作活動に携わった人たちの中には、のちに各々の国から勲章をもらっている人もいます。彼らが戦前・戦中に必死で鍛えた独立運動の指導者たちがのちの大統領などになっているからです。インドネシアの初代大統領になったスカルノがその代表例ですが、面会すると「教官殿!」と迎えてくれたと聞いています。実に愉快な話です。

 
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江崎 道朗

えざき みちお

評論家。専門は安全保障、インテリジェンス、近現代史研究。



1962年生まれ。九州大学卒業後、月刊誌編集、団体職員、国会議員政策スタッフなどを経て、2016年夏から本格的に評論活動を開始。月刊正論、月刊WiLL、月刊Voice、日刊SPA!などに論文多数。



著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社新書)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)、『コミンテルンとルーズヴェルトの時限爆弾』(展転社)ほか多数。



 


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