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多くの人が勘違いしている? 部活が「ブラック」になる理由

部活が「ブラック」になるのはなぜ?(前編)~昭和のやり方は通用しない 

◆昭和のやり方は通用しない

 昭和生まれの大人たちは「自分たちもたたかれて育ったが、顧問の先生には感謝している」と話す人が多い。だが、当時とは、子どもが育つ環境は著しく異なる。少子化や核家族化、自然環境や地域の崩壊、子どもの貧困。これだけ社会が変化しているのに、部活のありかたが旧来のままでうまくいくわけがないのだ。

 一方で、部活動の指導現場では、暴力や暴言に頼らず生徒の自主性や主体性を育てるやり方を選択する先生たちも増えている。その効果は、科学的にも証明されている。

 諏訪東京理科大学共通教育センター教授の篠原菊紀さんは「大きな進歩や結果でほめるのではなく、少しの進歩、スモールステップをほめることや、萎縮させないコーチングが結果的に選手を伸ばす」と話す。

 人の「やる気」にかかわる場所は、大脳基底核の一部である「線条体」だ。行動と情感を結びつけたり、筋緊張の調整に関与した神経細胞の集合体で、ここをうまく刺激することがパフォーマンスの向上に直結するという。対話して、認めて、ほめると「線条体」が活性化するわけだ。

 この指導法は「強化学習」と呼ばれる。脳科学的に証明され本質的な強化になるからこそ、そう命名された。

◆強化学習で強くなった駅伝の青学

 強化学習を実践しているチームをひとつ挙げるとすれば、2017年の箱根駅伝で3連覇を成し遂げた青山学院大学だ。初優勝したレース前の会見で、監督の原晋さんはこう宣言した。
「今回は、ワクワク大作戦でいきます」

 この一見ふざけたような作戦名は、優勝候補に挙げられ緊張気味だった空気を変えたくて思いついたらしい。そして学生は、監督の思惑通りワクワクしながら走り切り、初優勝を遂げた。

 実は原さんが監督に就任したばかりの頃は、練習に遅刻する者もいて競技に取り組む意識が低かったそうだ。そこで、まずは学生の意欲、すなわちやる気を高めようと、指導を行う際に四つのことを心掛けた。

①萎縮させず、寛容になること。
②コミュニケーションを一方通行にしないこと。
③具体的な指示を出し過ぎないこと。
④実現可能な目標設定にさせて、少しの進歩をほめること。

 選手からすれば、監督がすぐキレずによく話を聴いてくれて、あれこれ干渉せず、無理な要求をせずに少しよくなると認めてくれる。このやり方ならたしかにやる気が出そうだ。

「原さんのように、対話して、認めて、ほめると、“線条体”が活性化する。選手は、次もやればほめられる、認められそうだと、脳が勝手に推測してくれる。つまり、やる気の条件付けがしやすくなるんです」と篠原さんは言う。

 そのうえ、原さんは決して無理な目標設定をさせない。たとえ、目標タイムにその時点では遠く及ばなくても、前日のタイムより縮めていればほめ、選手の努力を認める。少しずつ進化するスモールステップで選手をみてゆく。

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島沢 優子

しまざわ ゆうこ

フリーライター。筑波大学体育専門学群4年時に女子バスケットボール全日本大学選手権優勝。 卒業後は、広告制作会社勤務や豪州、英国留学を経て、日刊スポーツ新聞社東京本社でスポーツ記者として、サッカー、ラグビー、水泳、バレー、バスケットボール等を取材。1998年よりフリー。『AERA』等で子育てや教育関係、ノンフィクションを中心に執筆し精力的に活動している。著書に『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(小学館)、『桜宮高校体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)など。


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