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第30回:「花粉 秋 なに?」

 

<第30回>

4月×日
【花粉  秋  なに?】 

周囲の人々が、花粉症の辛さを異口同音にして唱えている。

鼻水まじり、涙まじりのその訴えを、「あー、ねー」「辛いですよねー」と相槌を打ちつつ聞いていると、「なによ、その愛のない相槌は!どうせ、あんたになんて花粉症の辛さなんてわからないくせに!」とばかりに睨まれる。

ちょっと待ってほしい。
僕だって、花粉症の辛さくらいわかる。僕も、花粉症を発症させてから、もうかれこれ10年が経つ。

ただ、この春の季節に花粉症を発症させている人々と辛さを分かち合えないのは、なぜか僕の花粉症は夏の終わりから秋にかけて症状のピークが来るため、春にはすっかり落ち着いているからなのだ。
だから、春は「隠れキリシタン」みたいな、後ろめたい気持ちになって過ごすことになる。

たしかに春は楽なのだが、秋は鼻水はひどいし、目はかゆいし、「うれしくない。これからまた、ずうっとドラえもんといっしょにくらさない!」と叫んでいたときののび太くんばりに涙は出るしで、生きた心地がしない。
体質改善とばかりに、様々な民間療法を試したが、どれもダメ。

しかし昨年の秋、僕は画期的なことに気がついた。
体質改善がダメなら、精神を改善すればいいのだ。

具体的に言うと、どういうことか。

「私たちは、杉から、モテている」

こう思うようにすればいいのである。

私たちを悩ませる、杉花粉。
その花粉は、杉からしてみれば、立派な生殖活動の一環、つまりはセックスアピールである。その杉からのセックスアピールを猛烈に浴びて、私たちは顔面をぐしゃぐしゃに濡らし、「へ、変な声が出ちゃう!」とばかりにクシャミをしてしまうわけである。

エロい。実に、エロい。

しかも、「杉」というところにも、なんかしらのエロスを感じる。まあ、「杉本彩」の最初の一文字だから、みたいな安易な連想である可能性は否定できないが、なんというか「杉」には「たんぽぽ」「ぺんぺん草」にはない、大人っぽい色気が漂っている気がする。

そう考えるようになった昨年の秋、急に花粉症の辛さが軽減した。なんせ、誰からもモテたことなどない人生である。そうか、僕は杉からはモテるのかと、とたいした気になって街を歩き、クシャミをした。
しかも、大勢の人が春に杉からのセックスアピールを受けているのに対して、僕は秋にこっそりと受けている。なんだか、杉と密会している気分にすらなる。

今朝、花粉症持ちの母が辛そうに目をこすっていた。

「お母さん、それは杉からのセックスアピールなんだよ」

と教えてあげた。

早朝より息子の口から飛び出した「セックス」の響きに母は少々ビクッとしていたが、僕の説に耳を傾けたのち、「なるほど」となんとなく納得した表情を浮かべた。
そして、

「でも、あんたの花粉症は秋に発症してるんだから、杉花粉じゃないと思うよ」

と告げた。

「え?」

と僕は動揺した。

花粉   秋  なに?」でグーグル検索。

そこには「ブタクサ」という文字が、堂々と躍っていた。
ブタクサ。
なんかわからないけど、おそらくは、植物界一の、ブス。
そんなブタクサから猛烈にモテる季節が、もうすぐやってくる。

軽減したかと思われた花粉症の辛さ。それがむしろ重みを増したことは、確実であ
る。もうすぐやってくる夏および秋のことを、いまは考えたくない。

  
 

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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