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紙の本は滅びない。アメリカでも。

アメリカの読書風景②

アメリカの紙の書籍市場は伸びている

 一般に電子書籍大国と呼ばれるアメリカのデータをもう少し詳しく見ていこう。意外なことにアマゾンのリアル書店が登場した2016年、アメリカでの紙の書籍総売り上げは6億7400万ドルに達し、3年続けての増額となった。ちなみに昨年は大統領選挙戦に影響を与えたとされるフェイクニュースの氾濫があった一方で、一般書のノンフィクションの売り上げが前年比で6.9%も上がっているのが興味深い。
※データは前述ニールセン「ブックスキャン」(米国内の総売り上げの8割ほどをカバー)による。

 紙の本のカムバックと裏腹にEブックの売り上げは前年比で16%落ちているという。だが、これは出版社側の売り上げ報告をまとめたもので、出版社を通さないセルフ・パブリッシングのEブックは相変わらず成長しているようだ。ニールセン社の分析では、出版社から出ているEブックの販売価格の平均が8ドルなのに対し、セルフ・パブリッシングの本は3ドルが平均値で、お得感があるからだという。

 この状況の背景として、出版社側が必要以上にEブックを安売りしない値付け方針に切り替わったことにも一因があるだろう。もともと「ビッグ5」と言われる米大手出版社は、2014年にアップルと結託して「iBookstore」での定価を釣り上げたとされる反トラスト法の訴訟で司法省と和解した際、出版社側が価格決定できる「エージェンシー・モデル」を禁じられた過去があった。それが2016年半ばから縛りがなくなって再び出版社側がEブックの値付けの裁量権を得た経緯がある。

 自由にEブックを値下げできなくなったアマゾンは、代わりにペーパーバックの値段を下げたことも2016年の紙書籍の売り上げに貢献したと見る向きもある。

 だが、もっと根本的な要因はアメリカ人の読書指向が若い世代を中心に「紙」に回帰しているからかもしれない。読者調査で分かってきたのは、意外にも「ミレニアル」と呼ばれる若い世代が「本を読むなら紙」を好むということだった。大学生を対象にした調査の一つでは、実に92%がデジタルより紙で本を読む方が好ましい、と答えている。

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大原 ケイ

おおはら けい

日本語の本も英語の本も同じぐらい読んできたバイリンガル。講談社アメリカ、ランダムハウス・アジアなど、日米双方の出版社に勤めた後、翻訳権のリテラリー・エージェントとして独立。現在はフィクション、ノンフィクションを問わず日本の著者の作品を英語圏の出版社に紹介するべく、東京とニューヨークを往復する日々。著作に『ルポ電子書籍大国アメリカ』(アスキー新書、2010)など。


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