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エマニュエル・トッド理論で見通す。ヒットラードイツと安倍政権をつなぐもの

〜マザコン息子ヒットラー、そして「忖度」の習慣〜

「森友問題」がきっかけで、「忖度」という言葉が注目されています。実は、「官僚の忖度こそ、もっとも危険なファシズムの兆候」なのです。前編に続いて、明治大学教授の鹿島茂教授が、世界史の深層や混沌とする現代社会の問題を、新刊『エマニュエル•トッドで紐解く世界史の深層』より解説します。 

 

■「お母さん大好き」のマザコン息子だったヒットラー​

 直系家族地帯であるオーストリアで生まれ育ったアドルフ・ヒットラーも、(このような)時代の激変にさらされた青年の一人でした。

 ヒットラーの父親は小役人で、都市部移住の直系家族の父親の典型として、権威がないのに権威があるように振る舞う空威張りの人でした。ヒットラーは「お母さん大好き」のマザコン息子でしたので、大嫌いだった父親が死ぬと、家を離れて自由な風来坊生活を送ります。ウィーンで自称画家になりますが、売れなくてミュンヘンに移ってもあいかわらず食い詰めているときに、第一次大戦が起こり、志願してドイツ軍に入ります。

 その軍隊で、敗戦を経験した衝撃がその後のヒットラーの方向を決めていくわけです。

■スーパーファーザーを求める直系家族の息子たち

 というのも、直系家族においては、父親の権威に反発しながらもこれを承認することで大人になっていくのですが、家族の解体により、アイデンティファイする対象をあらかじめ失っている直系家族の息子、とりわけ次男・三男は、父親の延長ではない大きく飛んで離れた遠方の存在、スーパーファーザーのような存在を求めてしまうのです。解体期の直系家族に特徴的な不安、といえるでしょう。ヒットラーもまた、そのような不安をいだいていたのかもしれません。

 フランスの人類学者エマニュエル•トッドは、こうした時代の変容のなかにある直系家族の子の心性を、こう解き明かしています。

 「権威という理想の中で育った個人が、ただ一人で都市的な生活様式の中に入って行く。しかしその生活様式は、家族的理想の具体的実現を許してくれない。世帯はもはや個人に安心感を与えることがない。国家や政党が個人を呑み込み、心の平安を返してやらねばならなくなるのである」(『新ヨーロッパ大全』)

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  • 鹿島茂
  • 2020.01.05