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【元芸人・作家の松野大介】コロナ報道で視聴率稼ぎに勤しんだテレビ報道の大罪(前編)

「コロナ回想録」(前編)

◼️ 「人を見たらコロナと思え!」とワイドショー 

 私が観たワイドショーは、無症状者や致死率の割合の変化の可能性には触れず、「日本も知らないうちに感染し、他人に感染させているわけです」とか、「人を見たらコロナと思えってことですよ!」とまで語っていた!

 ある種の番組は、視聴率のための煽り報道にコロナを使っていると、私は見切った。緊急事態宣言で家にいる人々に恐怖を抱かせ、テレビに釘付けにする(番組の製作会社は1%の視聴率の上げ下げに必死だ)。昔テレビ業界にいた私にしてはそう感じるのが遅いのかもしれないが。

 その頃から人々は保健所に電話をかけ、病院に殺到した。検査を受けられない人が大勢いたことは、自治体によっては近年、保健所を縮小させたことも大きいだろう。しかし、病院も含め検査を求める人たちには、無症状なのに「コロナに感染しているのか知りたい」「以前に熱が出たが、あれはコロナだったか知りたい」「抗体を持っているのか確かめたい」人も詰めかけたという。高視聴率のさなか、不安と恐怖に支配された心理に 「自分だけは感染したくない」と利己的な気持ちも加わった。一部の人が押し寄せれば、病院や保健所は簡単にパニックになる。

 私はネットに、とある病院の貼り紙がアップされているサイトを見つけた。長いので要約すると、「検査は症状のない方には必要ありません。感染を心配するなら、インフルエンザも同じです」。

 その頃、検査が受けられず自宅療養していた50代の男性が亡くなったとセンセーショナルに報じられた。

 テレビでは、「50代でも突然悪化して亡くなられるんです」と「検査が受けたくても受けられない! 病院たらい回し。検査増やさない政府は何やってんだ」といったものが主な論調だった。確かにその2つは事実だが、病院や保健所を混雑させた要因の1つは、煽り報道だ。保健所がパニックになったことで検査が受けられず死んだのは、政府とテレビによる人災だと私は思う。

 人々は、そんな報道に何となく違和感を持ってはいたが、世界的にもコロナは流行していて、他国の病院も混推してる映像を観ているので、「コロナ恐し」が増長していった。

 しかし、過剰に怯えている人に限って、私が「インフルで日本だけで年間数千人死んでるんだよ」と言うと、「ええ!」とのけぞる。怯えてるわりには、何も知らない。いや、無知な人ほど怯えるものなのか。日本人は先進国の中でダントツでテレビを信じる国民というアンケート結果を思い出した。(*本原稿は2020.5.25に書いています)
【「コロナ回想録」後編】へつづく(明日19時配信)

 

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松野 大介

まつの だいすけ

1964年神奈川県出身。85年に『ライオンのいただきます』でタレントデビュー。その後『夕やけニャンニャン』『ABブラザーズのオールナイトニッポン』等出演多数。95年に文學界新人賞候補になり、同年小説デビュー。著書に『芸人失格』(幻冬舎)『バスルーム』(KKベストセラーズ)『三谷幸喜 創作を語る』(共著/講談社)等多数。沖縄在住。作家、ラジオパーソナリティー、文章講座講師を務める。

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