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小中高のオンライン化はコロナ危機対策ではなく「国策」

「Society 5.0」、「GIGAスクール構想」、「スーパーシティ構想」、「ムーンショット計画」、すでに国策として進行中

■Society 5.0時代に適合できる国民を育成すること

 「GIGAスクール実現推進本部」立ち上げに際してのメッセージに、文部科学大臣の萩生田紘一(はぎうだ・こういち)は、以下のように書いている。

 「Society 5.0時代に生きる子供たちにとって、PC端末は鉛筆やノートと並ぶマストアイテムです。今や、仕事でも家庭でも、社会のあらゆる場所でICTの活用が日常のものとなっています。社会を生き抜く力を育み、子供たちの可能性を広げる場所である学校が、時代に取り残され、世界からも遅れたままではいられません」と。

 ここで、文部科学大臣は、初等・中等教育でのICT活用は、日本の未来Society 5.0に適応できる国民を育成するための手段だと示唆している。

 Society 5.0とは何か。私が調べた限り、これは世界共通語ではなく、日本の官僚の造語であり、一種の和製英語らしい。

 Society 1.0 は狩猟採集社会。Society 2.0 は農耕社会。Society 3.0 は工業社会。Society 4.0 は情報社会。Society 5.0 は、サイバー空間とフィジカル空間が融合した社会。

 内閣府の説明によると、Society 5.0とは「第5期科学技術基本計画」(2016年度から2020年度)において提唱された未来社会の姿だ。

 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

 内閣府のサイトは、こう説明している。

 「これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人が行う能力に限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約がありました。また、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があり、十分に対応することが困難でした

 「Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となりますhttps://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html

 この説明だけではピンとこない。経団連とかいろいろな団体がSociety 5.0になると、どのような生活になるのか動画をいろいろ発信している。それらを参考にして、いろいろ想像してみよう。

 

 https://www.bing.com/videos/search?q=society5+0&&view=detail&mid=848D33FFCFF76B98D70F848D33FFCFF76B98D70F&&FORM=VRDGAR&ru=%2Fvideos%2Fsearch%3Fq%3Dsociety5%2B0%26FORM%3DHDRSC3

■Society 5.0時代の暮らしを想像する

 たとえば、身体(手のひらの親指の下あたり)に埋め込んだマイクロチップにより血圧や栄養状態が測定され、そのデータがAIドクターに送信され、診断してくれる。「チーズと甘いものは控えましょう」とか「ナントカ病院へデータ送信しておきますので、検査日のネット予約をしてください」とAIドクターが言う。いちいち通院する必要はない。

 病院で死んだら、病院から死亡証明データが役所に送られるので、埋葬許可書がデジタルで送られ、それは自動的に火葬場に送信され、火葬予約ができる。

 孤独死の場合は、死亡証明データが体内のマイクロチップから役所に送信される。死亡証明データを受信すると、役所のAIが火葬手続きをし、ロボットが死亡者の住居に直行し、遺体を火葬場に運搬する。遺体焼却後に残された遺骨は、生前に登録しておいた墓地にロボットにより運搬され置かれるか、遺灰散布場に運搬され散布される。

 ついでに、登録しておいた親類友人知人に死亡届が送信される。その送信された通知をスマホや端末でチェックした親類友人知人はSNSに投稿し、デジタルフラワーが献じられる。

 残された住宅なり資産は、前もって登録しておいたように処分される。登録はすべてインターネットでできる。実印捺印など無用だ。指紋に声紋に虹彩認識や顔認識などの複数の生態認証によって、何度でも上書き更新できる。

 Society 5.0 の中で生きる人間の暮らしは、このようなものらしい。実に便利である。ICTを活用できさえすれば、このような便利で快適な暮らしを満喫できるわけだ。人々はネットワークの中で生まれ育ち守られ死んでいく。

 そう、確かに、このような便利なSociety 5.0で生きていくことになる現在の小学生から高校生には、その便利なシステムを使いこなす知識と技術が必要だ。それこそICTを使いこなす能力=ICT literacyだ。

 ひょっとしたら、国語も算数も理科も技術家庭科もできなくても、ICT literacyさえあれば、快適に生きていけるのがSociety 5.0かもしれない。初等教育や中等教育機関において、何よりも習得すべきなのがICT literacyだからこその、「GIGAスクール構想」なのだろう。

■Society 5.0は国民のデータを集める管理監視社会でもある

 5月27日朝刊の「日本経済新聞」に、「コロナ禍はプーチン政権によるIT警察国家の樹立を促した」というロシア政治研究者の筑波大教授中村逸郎の言葉が紹介されている。

 新型コロナウイルス感染者数が35万人を超えたロシアでは、外出許可証のQRコードを受け取らないと、モスクワ市民は通勤のための外出もできなくなった。17万台の監視カメラが市民の行動を監視している。集めた個人データを基に警察が隔離対象者を取り締まっている。

 3月には、プーチン大統領の側近がロシア最大のIT複合企業ヤンデックスのファンドに名を連ねた。ヤンデックスは、ロシアではGoogleとAmazonとUberをいっしょにしたような大企業だ。ネット検索からインターネット通販に配車サービスまでカバーしている。つまり、国民のあらゆる生活データを政府が利用できる(かもしれない)体制になったということだ。

 これは、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが警告した、監視技術のすさまじい発展の一例だ。 https://www.kk-bestsellers.com/articles/-/11604/

 また、これは、日本政府が国策としてその実現を推進しているSociety 5.0の別の顔であるかもしれない。Society 5.0は、ユートピアのごとく便利だが、ディストピアのごとくプライバシーのない世界であるかもしれない。

 ユートピアであれ、ディストピアであれ、内閣府が、文部科学省や総務省などの各省庁や経団連(一般社団法人日本経済団体連合会・日本の大手企業を中心に構成される団体)や大学などの研究機関と連携して、Society 5.0の実現を目指しているということは、確実に日本社会はこの方向に行くのだろう。

■あまりにタイムリーなコロナ危機

 それにしても、Society 5.0実現が日本の進むべき方向と政府が決めたのが2016年であり、来るべきSociety 5.0時代の国民に必要な能力育成として「GIGAスクール構想」が打ち上げられたのが2019年12月。そして、2020年1月末から聞こえてきた新型コロナウイルス感染拡大の噂。

 3月には小中高の一斉休校。4月7日には7都道府県対象に緊急事態宣言発令。11日には、7都道府県の事業者に最低7割の出勤削減要請。22日には首相による大型連休中の外出自粛要請。

 やっと5月14日には39県で緊急事態宣言解除。21日には関西圏3府県を解除。25日には首都圏など5都道府県を解除。

 約2か月に渡る外出自粛や小学校から大学までの休校は、いやがおうもなくオンライン化を促した。

 結果として、国策である「GIGAスクール構想」やSociety 5.0の実現に一歩近づいたようだ。まさに、実にコロナ危機はタイムリーな事件であった。秋が来れば、第二波のウイルス感染拡大も懸念になってくるのだから、オンライン化は後退することはない。粛々と、小中高校は、Society 5.0に適応できる人間養成に勤しむしかない。

 内閣府や省庁のウエッブサイトを見る限り、国策には、Society 5.0実現に関連して、「スーパーシティ構想」もあり、「ムーンショット計画」もある。それは何かを知りたければ、内閣府や省庁のウエッブサイトをチェックしよう。内閣府の「国家戦略特区」のサイトも読んでみよう。

 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/

 政府は、日本をどんな社会にするかというヴィジョンや国策を隠していない。ちゃんと公にしている。私たち国民がぼんやりしていて知らないだけだ。

 すでに、「スーパーシティ構想」の実現に向けた「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」は、5月27日に政府提出案どおり成立している。地域限定型規制のサンドボックス制度(コンピューターのセキュリティ技術で、外部から受け取ったプログラムを保護された領域で動作させ、システムが不正に操作されるのを防ぐ仕組み)の創設や、特区民泊における欠格事由(暴力団排除規定等)などの整備も盛り込んだ法律だ。

 日本の国策は、もちろん日本政府だけで独自で考えたものではない。属国の日本が独自にそんなことを立案できるはずがない。日本の国策は、世界が進む方向と足並みが揃っているはずだ。

 「Society 5.0」だか、「GIGAスクール構想」だか、「スーパーシティ構想」だか、「ムーンショット計画」だか知らないが、世界を動かす人々がめざす社会に適応できる人間養成としての初等教育機関と中等教育機関でのオンライン化は、もっともっと進行する。

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藤森 かよこ

ふじもり かよこ

1953年愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』、『利己主義という気概』を翻訳刊行した。物事や現象の本質、または人間性の本質を鋭く突き、「孤独な人間がそれでも生きていくこと」への愛にあふれた直言が人気を呼んでいる。

 

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