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第16回:「干支 言えない」(前編)

 

<第16回>

1月×日【干支 言えない】 (前編)

「干支 言えない」でグーグル検索。

予想以上に多くの人が
「オレ、干支って全然言えないんだよねー」
「巳以降にどんな動物が控えているのか、いまだにわかりません」
などと告白しあっていた。
最近の子どもは十二支を全て言えない傾向にある、というネットニュースも出てきた。

その様子を眺めて、複雑な想いになる。

窓の外を眺めると、一月の雲ひとつない青空が広がっている。
鼻の奥がツンとなるような冬の澄んだ空模様を見ていると、小学三年生の頃の苦い思い出が蘇ってくる。
僕は、十二支が言えない子どもだった。

小学三年生の冬のある日、一緒に下校していた本田くんが僕に、白い息混じりにこう尋ねてきた。

「・・・お前、干支って全部言える?」

それは本田くんからの、突然の挑戦状であった。

僕と本田くんは、クラスで一、二を争うバカだった。
僕が家庭科の授業中にミシンで自分の親指を縫えば、本田くんは理科の授業中にアルコールランプで自分の前髪を全焼させる。
僕が飼育小屋のチャボと餌の取り合いで大喧嘩を繰り広げれば、本田くんは給食で牛乳を八杯飲んで独特な色のゲロを吐く。
僕が国語の授業で「なにか知ってる諺を述べよ」と先生に問われて「とろーりチーズをトッピング」と答えれば、本田くんは「がつんとガーリック味」と答える。

ふたりは、バカだった。諺を「ポテトチップスの袋に書かれているキャッチコピー」のことだと勘違いしているほどに、バカであった。
僕は本田くんのことがそんなに好きではなかったが、バカ同士ということで仕方なく仲良くしていた。
たぶん、本田くんも同じ気持ちだったと思う。

その本田くんから、突然の「お前は干支が言えるのか」という宣戦布告。
見ると、本田くんは得意げな表情を浮かべていた。

まずい。

こいつ、干支を習得しやがった。
(次回に続く)

 

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。今年もよろしくお願いいたします!

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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