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第12回:「サンタ プレゼント 悲しい思い出」

 

<第12回>

12月×日【サンタ プレゼント 悲しい思い出】

もうクリスマスのCMがテレビから流れ出している。

僕には、クリスマスに苦い思い出がある。小学三年生の頃、クリスマスを目前に控えたある日、僕はちょっとしたイタズラ心を起こした。

母の作る餃子。その具の中にこっそりと芋虫を混ぜた。皮に包まれたそれは、誰にも知られることなく他の餃子とともにこんがりと焼かれていく。僕はそれをニヤニヤしながら目で追う。
不運な父が、それを食べた。口の中の違和感から、それを吐き出す父。食卓の上に横たわる、でっぷりとした芋虫。
そして父は、少しの間を置いて「・・・おれはパプワニューギニアの人じゃない」と静かに僕を叱った。

そして、クリスマスの日。「良い子」にしか届かないクリスマスプレゼントの代わりに、朝、僕の枕元の靴下に入っていたもの。

それは、靴下いっぱいの、石炭であった。

石炭。「石」の「炭」である。
わざわざ単語を分解して説明しなくても、それが小学三年生にとってどれだけ嬉しくないプレゼントであるかは、想像していただけると思う。
いや、小学三年生だけではなく、誰だって石炭などもらっても喜ばないだろう。石炭をもらって喜ぶ奴がいたとしたら、そいつは機関車かなにかである。

それはサンタからの、精一杯の、報復であった。

いまでもあのクリスマスの日のことを反芻すると、憂鬱な思いに駆られる。
僕よりも悲しいクリスマスプレゼントをもらった人間が、果たしてこの世に何人存在するのであろうか?

サンタ プレゼント 悲しい思い出」でグーグル検索。

まさか、である。
この世には石炭以上に悲しいクリスマスプレゼントが存在する。ブラウザの検索結果表示は、その事実を浮き彫りにした。
検索によって明らかになった、サンタからの悲しいプレゼント。それを私的ランキングでここに発表したい。

第三位
「ゆでたまご」

悲しい。
第三位から、いきなり悲しい。
「生だとアレだから、せめてゆでた卵をプレゼントしてあげよう」。そんなサンタの心遣いが、余計に悲しい。
朝起きて、プレゼントが朝食代わり。塩をかけて、もそもそと食べるそれは、塩辛い思い出の味に違いない。

第二位
「五百円玉」

現金である。
こんなにも冷たい匂いのするクリスマスプレゼントがいまだかつてあっただろうか。
プライスレスな思い出ではなく、プライスしかない思い出である。
これは現在も活躍しているアイドルの、幼き日の苦い思い出として紹介されていた。このアイドルのことは、今後なにがあっても応援する。そう心に決めた。

そして堂々の第一位
「盗品」

悲しすぎる。
サンタが手を汚して人様から奪ってきたプレゼントが、朝日を受けてキラキラと輝く。人の道を完全に外れたクリスマスの朝である。
盗品だとも知らずにはしゃぐ子ども。するとアパートのドアをノックする音。そして、警察に連れられていくサンタ・・・。
ジョンレノンが提唱した「愛と平和のクリスマス」と全く真逆の世界が、そこにある。

悲しい。
調べれば調べるほど、僕は悲しい気持ちに身を沈めていく。パソコンの電源を切り、僕は窓辺に向かう。

今年はこんな悲しいプレゼントをもらう子どもが、世界にひとりもいない、そんなクリスマスになりますように。夜空の星に、そう願う。
ふいに鐘の音が聴こえた気がしてハッとしたが、それは鐘の音とかでは全然なく、パソコンがシャットダウンされる音だった。

 

*本連載は、毎週水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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