脳梗塞になって失った〝途方もなく大きなもの〟と新米身体障害者の〝自宅生活における課題〟【真柄弘継】連載第12回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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脳梗塞になって失った〝途方もなく大きなもの〟と新米身体障害者の〝自宅生活における課題〟【真柄弘継】連載第12回

【連載】脳梗塞で半身不随になった出版局長の「 社会復帰までの陽気なリハビリ日記」163日間〈第12回〉

 

◆なぜきついストレッチをした後に下痢になってしまうのか?

 

■9月29日月曜日

朝のタイムトライアルについて日記を読んでくださっている方から指摘があったので、少し詳しく補足。

 

毎朝、着替えが済んで汗だらけのトレーニングウェアなどを洗濯籠へ入れに行く。

そこからは歩くだけの自主トレをしている。

コースとしては私の病室からラウンジを経由して食堂の自席までで、距離にしておよそ100メートル。

毎朝このコースを5周するのが日課。

杖で自由に歩けるようになった9月18日から毎日繰り返している。

3周目にタイムトライアルとして記録をつけているのだ。

この時間が短縮されること=速く歩けるようになっていること。だから記録をつけているのだ。

健常者ならゆっくり歩いて1分ほどの距離を、私の速度が日々どれくらい近づけるのか?

リハビリテーション病院に居られるのもあと51日。

人並みに、それも杖を使わずにどれほどの速さで歩けるのか?

このためのタイムトライアルなのである。

 

タイムトライアル。

3分48秒。

 

もう一つ、先週の日記に書いた粗相についてご報告。

きついストレッチをしてもらったら下痢になったことをセラピストさんに相談。

早速調べてくださり教えてくれた。

 

マッサージやストレッチで血液やリンパの流れが促進され、体内に滞留した老廃物や毒素が排泄されやすくなり、消化器系も一時的に活性化するため、下痢として排出されることもあるらしい。

これは身体が健康な状態に向かおうとする自然な反応で数日で治まる。

これは好転反応によるということ。

 

教えてもらって気持ちが楽になり、下痢も治まった。

 

毎朝、廊下を歩いて自主トレをしているときの様子を書いておこう。

朝6時をまわると見守りされている高齢者(一部50代)たちが、夜勤の看護師と介護士に車椅子を押されて食堂に連れてこられる。

彼らは連れてこられるときに目覚めているとは限らない。

たとえ寝ていても起こされて、次から次に連れてこられるのだ。

夜勤は看護師二人と介護士二人の計四人。

夜勤の彼らの朝は見守られ老人たちを食堂に連れてくるので多忙だ。

見守りでない私のような患者さんからのナースコールに対応しながら、なんとか7時30分頃までに見守られ老人たちを連れてくる。

7時少し前には早番の介護士が二人出勤してくる。

彼らは朝のルーティンである患者さんたちのお茶を用意したり、新聞をラックに並べたりと、何かと忙しい。

見守られ老人たちは静かに自分の席で所在無げにしているが、彼らの心中はいかばかりだろう。

 

私が見守りで自由に動けなかったのは2週間。

毎朝迎えに来られるのを心待ちにしていた。

食堂に連れて来られてからは新聞を取ってもらったりしていた。

食事を終えたら左手を挙手して介護士さんを呼ぶ。

そこから歯磨き待ちの車椅子の列に並び、歯磨きが終わったら部屋に送ってもらう老人たちと一緒に並んで待つ。

部屋に送ってもらったらリハビリのセラピストさんが来るのを待つ。

こんなのを2週間もよく耐えたもんだ。

身体が動かないから、列で待っている間は、ただただ周りの人たちを観察していた。

退院して急に居なくなった人や、新しく来た人のことなどを。

 

本日最初のリハビリは、昨日の家屋調査で課題となった膝立ちや床からの立ち上がり。

その後に公道を距離を延ばして歩いた。

歩くときの身体のバランスを指摘され、そのまま杖無しの際のバランスの練習を行った。

初っ端からリハビリというよりは、ハードなトレーニングになって、かなりくたびれた。

お次も足のリハビリ。

筋トレマシンと平行棒のところで前後に歩く練習。

地味な運動なのに身体はヘロヘロ。

午後イチで入浴して、その後も足のリハビリ。

このリハビリテーション病院に入院してから3ヶ月ちょっと。

理学療法士として私を担当してくれたO本さんが、この病院での最後の勤務となる。

左手でお手紙と言うには短いご挨拶文を書いて渡した。

彼女は系列のリハビリテーション病院から1年間の期間限定で勤務していたのだ。

私の退院まで見届けてはもらえないけど、こんなに早く杖で歩けるようになったのは、彼女の的確なサポートのお陰だ。

感謝しかない。

 

最後は手のリハビリ。

メルツでの指の開閉もだいぶ良くなった。

あとは自力で手を広げられるようにするだけだ。

一昨日の夜から疲労度は軽減してきた。

けれど週一回の休息日は家屋調査で身体は休めなかった。

今日は朝から足に力が入らない。

今週末は息子の結婚式があるから、木曜日か金曜日を休息日にして体調を整えよう。

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真柄弘継

まがら ひろつぐ

現役出版局長

1966年丙午(ひのえうま)126日生まれ。

1988年(昭和63)に昭和最後の新卒として出版社に勤める。

以来、5つの出版社で販売、販売促進、編集、製作、広告の職務に従事して現在に至る。

出版一筋37年。業界の集まりでは様々な問題提起を行っている。

中でも書店問題では、町の本屋さんを守るため雑誌やネットなどのメディアで、いかにして紙の本の読者を増やすのか発信している。

 

2025年68日に脳梗塞を発症して半身不随の寝たきりとなる。

急性期病院16日間、回復期病院147日間、過酷なリハビリと自主トレーニング(103キロの体重が73キロに減量)で歩けるまで回復する。

入院期間の163日間はセラピスト、介護士、看護師、入院患者たちとの交流を日記に書き留めてきた。

自分自身が身体障害者となったことで、年間196万人の脳卒中患者たちや、その家族に向けてリハビリテーション病院の存在意義とリハビリの重要性を日記に書き記す。

また「転ばぬ先の杖」として、健康に過ごしている人たちへも、予防の大切さといざ脳卒中を発症した際の対処法を、リアルなリハビリの現場から当事者として警鐘を鳴らしている。

 

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