NHK稲葉会長の後任は井上樹彦副会長。小池専務理事は及ばず…関係者の見方は?

今年2026年1月24日で任期満了を迎えるNHKの稲葉延雄会長の後任に井上樹彦副会長の昇格が決まった。
井上副会長は橋本元一氏以来、18年ぶりの内部昇格となる。
だが、今回の会長選出は石破政権から高市政権に代わったこともあって混迷を深めた。
任命権を有するNHK経営委員会の「政権には左右されない」(古賀信行委員長)に対して、NHKに一定の影響力を持ちたい官邸との間で「駆け引きが続いた」(政府関係者)とも言われている。
結局、経営委員会の意思を押し切った恰好となったものの「12人の委員による賛否は9対3に割れた」(古賀委員長)。
かつてないほど熾烈化したNHKの次期会長選の舞台裏と、新会長に昇格した井上氏への期待とは—-。
NHK経営委員会は昨年7月「指名部会」を立ち上げ審議を進める中で、副会長で会長代行として稲葉会長を支えてきた井上氏を後任会長にスライドする方向で話し合われてきたと言われている。
昨年10月1日から本格的なインターネットサービスとして「NHK ONE」をスタートさせたNHKは、公共メディアとして受信料制度の維持・継続が直近のテーマとなっている。
NHKの収入は6300億円前後だが、少子高齢化やテレビ離れで受信料契約は今後、大きく落ち込んでいくことが予想されている。
NHKに詳しい関係者によると「直近では、契約世帯は78%程度。残りの22%は未契約、あるいは未払いとなっています。そこで、受信料の値下げを行う一方で、職員のスリム化や番組の効率化を図る取り組みをしてきた」という。
だが、「1000億円にも及ぶ受信料値下げで収支構造が大きく変わった」(古賀委員長)ことや、さらに総額1700億円にも及ぶ東京・渋谷の放送センターの建て替えなどで発生した大規模投資もあって赤字額は一段と広がりをみせている。
「現状は、明らかに厳しい状況に陥っている」(NHK関係者)が、そう言った中で稲葉会長は井上副会長との二人三脚で改革を推し進めてきた。
今回は、そのタイミングでの次期会長選出となった。
それだけに、その人選は「NHKの現状に理解のある人がいいと考えていた」(古賀委員長)。
が、おりしも政界も石破政権から高市政権に変わったこともあって、その流れは紆余曲折となった。
その一つが「小池英夫専務理事も会長候補として名乗りを上げてきた」(放送関係者)ことだったと言われる。
「プロパーからの会長選出という道筋が見えたこともあったと思いますが、一番の要因は高市政権になったことでしょうね。と言うのも、高市総理と井上さんがソリが合わないことは誰も知っていましたからね。当然、小池さんも『チャンス到来』と思ったはずです。井上さんは会長決定のプロセスについて『経営委員会の論議以外ない』などと言っていましたが、小池さんは、その言葉を逆手にとったと思いますよ。自民党内には報道局を掌握する小池さんに期待する人が多かったですからね」という。
報道、編成、さらにはアイテックや放送衛星システムなど関連会社などを渡り歩いてきた井上副会長は確かにバランス的には理想なのかもしれないが、政権を維持したい自民党にとっては入局以来、報道畑一筋だった小池専務理事の方が政権にとってのメリットが大きいというわけだ。
実際、現在でも局内では報道や国際放送に睨みをきかせているそうで、報道・政治重視の“剛腕”ぶりを発揮し続けている。
そういった側面からも、会長選出では積極的だったようだ。
「小池さんとしては秘密裏に動きたかったようですが、一部の理事や報道局の幹部、さらには井上さんの会長就任に反旗を翻していたと言われる元女性記者などが動いたこともあって、かなり目立ったようです。とにかく井上さんのネガティブな情報を出したりして、小池さんの優位性を図っていたと聞きます。ま、井上さんも脇が甘い部分があったようなので仕方のないことですが、高市総理との関係は大きなネタになっていましたね」(一般紙の放送記者)。
小池専務理事も、自民党の有力者に支援を訴えていたと言われる。
「専務理事で経営企画を担当していたので、自民党や官邸に行っていても不思議ではなかったですからね。それに井上さんにとっても16年から関連会社に異動してから副会長として復帰するまでの7年 は長かった。その間に小池専務理事はNHK内で地位を確立していましたからね。井上さんも小池さんに頼る部分が多かったと思いますよ。小池さんにとっては、その部分が優位性となって自信になっていたはずです」(前出の放送関係者) もっとも、現実的には小池専務理事には批判も多かった。
報道局長時代には社会部記者による不正請求問題で報酬1ヶ月の10%を自主返納する処分を受けたことがあり、『森友問題』では国有地売却問題で現場記者を担当から外し、報道を揉み消したことが発覚。
一部の研究者や弁護士有志から批判を浴びた。
「とにかく、自分の出世に響くようなネガティブなネタは、どんなスクープでも揉み消していたようです」(前出の放送記者) 専務理事としても経営の根幹においても失態があった。
昨年2月には、NHKがIT大手の日本IBMに発注していた受信料関係の営業システム開発が中止になったことから30億円余りの特別損出を出した。
この問題でNHKは、
IBMに対して支払った約54億7000万円の返還や損害賠償を求めて東京地裁に提訴しているが「責任者でしたからね。受信料を経営の基盤としているNHKにとってはある意味で致命的な大失態」(前出の放送記者)。
さらに最近では、民放各社との間で取り組んできた中継局の共同利用で、NHKは600億円を捻出して子会社「日本ブロードキャストネットワーク」を在京5社の民放と運営することで進めてきたが、ここにきて「採算が取れない」と、突然に見直しを言い出したことが問題を大きくしている。
「この問題では、井上さんに責任を転嫁している部分がありますが、実際には経営企画統括の立場にあった小池さんの案件ですからね。結局、IBMの問題も含め、局内に責任を取らせるべきだという声もあるようです。それが気づいたら会長候補でしたからね。当然、違和感を持つ人も多かったようですよ」(民放関係者) それが、今回の会長人選では選任手続きが佳境に入っている裏で「会長就任の際はよろしく」などと、自民党の幹部に対して挨拶周りをしていたという情報も出てきた。
「井上さんのバックには麻生太郎副総裁がいると言われていましたが、実際のところ真偽はわかりません。しかし、小池さん自身は世耕弘成議員との関係が深く、旧安倍派の有力議員への接触も好感触だったようです。さらに周辺にはお中元、お歳暮なのかワインを贈っているとも言われていますからね。それに外相の茂木敏充氏は理事時代に副会長にも推挙してくれたようですから、さすがに政治力では井上さん以上だったと思います。おそらく官邸はもちろん自民党内は完全に掌握したつもりでいたのだと思いますが、さすがに自民党幹部の一部からは“動き過ぎ”なんて心配する向きもあったようです」(フリーの記者)。
しかし、そういった小池専務理事の動きもあってか、昨年12月8日に開かれた経営委員会は紛糾した。
普通なら午前中にも新会長が承認される予定だったが、井上副会長の会長就任に対して官邸から「待った!」が出た。
「委員会は午後も継続され、一旦は井上さんの会長就任が白紙になりかけました。代わりに小池専務理事の会長案も出たようですが、その一方で経営委員会の委員の中から監査委員だった田渕正朗氏(元住友商事代表取締役専務執行役)の会長と小池専務理事副会長長昇任が上がったのです。しかも、この案には官邸も了承する方向だったようです。ところが、肝心の田渕さんが会長辞退を言い出したことから、議論は振り出しに戻ってしまった。最終的に経営委員会の多数決で決定することになり、結局、当初案だった井上さんの会長就任が決まったのですが、委員12人のうち3人が反対しました。会長選出に当たっては9人以上の賛成が必要だったのでギリギリだったのです。ただ、何かと威圧的だった小池さんが会長に選ばれなかったことには、局内の社会部記者の多くがホッとした様子だったと聞きますから、現実には一枚岩ではなかったのかもしれません」(前出のフリー記者)。
とは言っても「紙一重で井上新会長に決定したことは確かです」(前出の放送関係者)。
古賀委員長は「事業構造改革でネットの参入があったが、これを具体的にどうしていくのか?それらをやらなければならないときに(トップを変えて)さらに改革、改革のドライブをかけるよりは(稲葉会長の手掛けてきた)目の前の継続性についてきちんと実際的に進めていく体制をとらなくてはいけない」と、現状維持を示したことになる。
前述したが、高市総理が井上副会長とソリが合わないという情報もあるが、放送関係者の中には「実際には何とも言えません」という声も多い。
「今回も麻生副総裁が、高市総理に対して“ここはNHKに貸しを作ろう”と言ったとか。そんな話も出ているのも事実ですが、真偽は不明ですし、捉え方によっては意図的にしか思えませんからね。そもそも、井上さんが副会長だった3年間に高市さんが苦言は呈していたという情報もありません。仮に麻生さんが“貸しを作ろう”と言ったとしたら、内部昇格に対してということぐらいだと思いますけどね』(放送記者) なお、井上新会長を支える副会長には山名啓雄専務理事もセットで内定したと言われている。
山名専務理事は番組制作の出身。
かつては「ブラタモリ」などの政策にも当たってきたが、現在はメディア総局長も兼ねている。
「山名さんはエンタメのことしか頭にないと思いますが、今回の『紅白』で、出場歌手の中のaespa問題で、どう責任を取るのかも注目されます。今後、小池さんはその部分でも責任を追求し。副会長を狙ってくる可能性も否定できません」(前出の放送関係者)。
兎にも角にも、井上新会長にとっては波瀾万丈の船出となりそうだ。
文:BEST T!MES編集部
