京都の夜はもっと長いはずだったのに…〝書かないと死んでしまう〟そんな衝動とともに帰京した日【神野藍】連載「揺蕩と偏愛」#20
神野藍 連載「揺蕩と偏愛」#20
【曖昧さを愛せるようになったのは歳を重ねた証拠?】
薄水色の空にオレンジ色が混じり、徐々に一つへと変わっていく。二カ所目のサービスエリアに立ち寄る頃には、背筋を思わず伸ばすような冷たい空気とどこまでも続く黒に包まれていた。東京の家から見える空は狭く、そして均一だ。空を眺めようとすると、所狭しと立ち並んだビルが目に入る。空は私の頭上に広がっているものではなく、横に見えるものだった。緩やかな色味を拾い上げることもなければ、季節によって違う空気が漂っていることにも気がつかない。誰かが窓の外を映像にすり替えても私は何食わぬ顔で生活してしまうだろう。
隣で運転する男が煙草に火をつける。googleマップの言う通りになりながらも、いくつかある選択肢の中で私に良い空を見せようと道を選んでくれる人。この時間がそのまま真空パックに詰められればいいのに。画面に映される表示時間が短くなっていくのに、私の口数は少なくなってしまった。それと同時に私の中で音が浮かんできた。人間性との関係性は不思議だ。私の一つ一つの選択で、出会える人もいれば、別れる人も再会する人もいる。関係性の濃淡がつき、貼り付ける名前も一定でなくて良い。曖昧さを愛せるようになったのも歳を重ねた証拠なのだろうか。
ぼんやり窓の外を眺めていると品川駅への到着アナウンスが耳に入る。4日分の荷物が入ったキャリーケースは行きよりも軽くなった気がした。ホームに降り立つ。やっぱり京都の寒さは東京のそれとは違う。身体にひんやりとした空気を取り込み、そしてそれ以上に長く吐き出す。
私の道が始まる。一人だけど、一人ではない。目を閉じれば誰かが隣にいる感覚がある。よし。足元に落としていた視線を上に移し、改札へと向かった。
文:神野藍
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✴︎目次✴︎
はじめに
#1 すべての始まり
#2 脱出
#3 初撮影
#4 女優としてのタイムリミット
#5 精子とアイスクリーム
#6 「ここから早く帰りたい」
#7 東京でのはじまり
#8 私の家族
#9 空虚な幸福
#10 「一生をかけて後悔させてやる」
#11 発作
#12 AV女優になった理由
#13 セックスを売り物にするということ
#14 20万でセックスさせてくれませんか
#15 AV女優の出口は何もない荒野だ
#16 後悔のない人生の作り方
#17 刻まれた傷たち
#18 出演契約書
#19 善意の皮を被った欲の怪物たち
#20 彼女の存在
#21 「かわいそう」のシンボル
#22 私が殺したものたち
#23 28錠1シート
#24 無為
#25 近寄る死の気配
#26 帰りたがっている場所
#27 私との約束
#28 読書について1
#29 読書について2
#30 孤独にならなかった
#31 人生の新陳代謝
#32 「私を忘れて、幸せになるな」
#33 戦闘宣言
#34 「自衛しろ」と言われても
#35 セックスドール
#36 言葉の代わりとなるもの
#37 雪とふるさと
#38 苦痛を換金する
#39 暗い森を歩く
#40 業
#41 四度目の誕生日
#42 私を私たらしめるもの
#43 ここじゃないどこかに行きたかった
#44 進むために止まる
#45 「好きだからしょうがなかったんだ」
#46 欲しいものの正体
#47 あの子は馬鹿だから
#48 言葉を前にして
#49 私をほどく
#50 あの頃の私へ
おわりに



