真面目な独身女性ほど「便利な存在」にされる――京大院卒・49歳が公務員を辞めてニセコへ行った理由【谷口友妃】
ミドル独女~私たちのホンネ~ 49歳瑞希さんの場合
■安定は、「幸せな人生」を保証してはくれなかった
瑞希さんの「人生を楽しむ力」が磨かれたのは、大学休学中のファームステイでの体験も大きい。フランスのワイン農家では、ブドウ摘みボランティアを体験した。人種も文化も違う十数人のボランティアと肩を並べて働くなかで、「生き方はひとつじゃない」と実感したのだという。
特に印象に残ったのは、スロバキア人夫婦の生きざまだ。ご主人は教員だったが、1年の休暇を取ってフランスに来ていた。瑞希さんが「休んでいるあいだ、仕事はどうしてるんですか?」と聞くと「同僚に任せた」と言う。自分がやらなくてもほかの教員がカバーできるし、それがみんなの成長にもつながるという考えだ。
日本人なら、「周りに迷惑をかけてはいけない」「仕事を手放したら生きていけなくなる」と思う人が多い。
「人生には、決められたレールのまま生きる以外にもたくさんの選択肢がある」
このとき芽生えた思いは、20年後、退職を選ぶ彼女の決意を確かに支えていた。
■話したいときだけ話せて、あとは自由がちょうどいい
瑞希さんは現在、スノボや推し活のほか、野球観戦にもハマっている。自宅から3時間ほどの場所にできた北海道日本ハムファイターズの本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」に通っていたが、やがて日ハムファンになった。現在は、球場近くにお部屋を借りてニセコとの二拠点生活を堪能している。
移住でニセコにやってくる人たちは、ほとんどが独身だという。
「ニセコは、気の向くままに生きているように見えて、何かしらしっかり仕事をしている人が多いんです」
そうした人達と触れ合うのも刺激になっている。
30代半ばまでは結婚も考えた。しかし、子どもの頃から「好きなことに没頭する時間」が何より楽しかった瑞希さん。両者を天秤にかけたとき、迷いはなかった。
「他人の人生まで背負うのは、面倒くさいというか、しんどい気がする」
この発言を、「わがままだ」と受け取る人もいるかもしれない。しかし、面倒くさいと思いながらも「世間」を意識して家庭に入り、我慢を重ねて苦労している人もいるのではないだろうか。
今後についてはどう考えているのだろう。
「不安がゼロではないけど、どうにかなる気がします」
それは、新しい土地で自分の人生を切り拓いてきた「これまで」のうえに築くことができた自信だ。
「これから先、独身で子どもがいない高齢者も増えて行くやろうから、年取ったら高齢者が住むシェアハウスみたいなのに住みたいな。話したいときだけ話せて、あとは自由っていうのがちょうど良いですね」
瑞希さんは、今年、友達と中南米への旅行を計画している。
「市役所やめたときに海外旅行に行こうと思ってたんやけど、コロナで延期になってたんです。今年こそはと、楽しみにしています」
瑞希さんの「やりたいこと」は、まだまだ終わりそうにない。
40代になってから、仕事も住む場所も変え、アルバイトから新しい人生を始める——。それは、決して簡単な選択ではない。これまで積み上げてきたキャリアや収入があればあるほど、「ここまでやってきた自分」を手放すことに、ためらいが生まれる。
それでも瑞希さんが、人生を再起動できたのは、彼女の中にあった好奇心を無視しなかったからだ。それが、真面目に生きてきたのに、どこか報われない思いを抱えている女性たちにとって、大切な一歩になるのかもしれない。
取材・文:谷口友妃
