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真面目な独身女性ほど「便利な存在」にされる――京大院卒・49歳が公務員を辞めてニセコへ行った理由【谷口友妃】

ミドル独女~私たちのホンネ~ 49歳瑞希さんの場合

誰もがうらやむ「安定」を捨て、彼女がニセコで掴んだ幸せとは ※写真はイメージ

社会人になってから、ひたすら職場で求められる役割に応え続け、疲弊してきたミドル世代は多いのではないだろうか。

ほかの人が理由をつけて引き受けない仕事や、気が進まない管理職のポジションも断れない。違う生き方を考えたことがあっても、これまで積み上げてきたキャリアの外に出るのは、現実的ではないと感じてしまう。

今回、話を伺ったのは、そこで「このままではいけない」と立ち止まった一人の女性だ。背中を押してくれたのは、モンゴルツアーで聞いた赤ちゃんの泣き声だったという。

“ミドル独女”の一人として、彼女が選び取った生き方をひもといていく。


 

■真面目にこなす独身女性ほど仕事が大変になっていく

 

「友達からよく『私の友達のなかでいちばん幸せそうだよ』って言われるんです」

 そう言って笑う瑞希さん(仮名49歳)。「次は何をしよう」と日々ワクワクしながら過ごしているパワーが、取材のあいだ、ずっと伝わってきた。

 瑞希さんは、40代半ばで公務員の仕事を辞めてニセコに住み始めた。ニセコを選んだのは、モンゴルツアーで出会ったガイドさんの影響だ。ニセコは「英語ができれば仕事がたくさんある」と聞いたのを覚えていた。スノボもできるし、外国人観光客と触れ合える環境も魅力的だった。

 公務員を辞めた2021年12月、旅行の延長のような気持ちでやってきて、ホテルの事務やレストラン、馬のお世話の仕事をしながら生活してきた。

 スノボやリゾバに夢中になっているとき、ふと市役所時代の同期たちの顔が浮かぶ。瑞希さんは自由になれたが、同期の独身女性は、我慢を強いられる生活を続けている。

 

「与えられた仕事を完璧にこなす独身女性は、組織にとって『便利すぎる存在』なんです。たいして望んでいなくてもどんどん役職が上がり、責任だけが増えていく。一方で、『私、無理です』と主張して大変な仕事を避ける人は、楽な仕事しか振られない。そんな不条理をたくさん見てきました」

 

 瑞希さん自身も理不尽な思いを経験した。他の人が断り、瑞希さんが引き受けた仕事は、いつの間にか『瑞希さんの仕事』になっていた。そして、『瑞希さんならやってくれる』と低くみられ、次々と仕事が振られるようになった。

 真面目に働く人にばかり負荷がかかり、自由が奪われていく。その矛盾に折り合いをつけられず、心身を削っている女性は少なくないはずだ。

 瑞希さんはそんな彼女たちへ、静かにこう問いかける。

 

「もし迷っているなら、別の選択肢もあるよ、と伝えたいんです。退職してパートをしながら、貯金を運用して暮らしていく道だってある。私はたいして貯金がなかったけれど、わりと楽しくやれています」

 

 元同僚に伝えると、「やっぱり心配だし」とか「50歳まで待ったら割り増しで退職金をもらえるから」という答えが返ってくる。

 最初は旅行のつもりで来たニセコ。収支は完全な赤字から始まったが、現在は公務員時代の4割ほどの収入を得られるようになっているという。

 もちろん、生きてきた環境が違えば経済状態も違う。「たいして貯金がなかった」と言う瑞希さんだが、よく聞けば退職金と貯金、保険等を合わせて1000万円ほどの蓄えがあった。だが現実的には、蓄えがなく日々の生活にいっぱいいっぱいな人も多い。

 すぐに仕事を辞めて「好きなことで生きていく」とはならないかもしれない。瑞希さんが伝えたいのは、「いろいろな選択肢があることを知って人生の時間を大切にする」というマインドの持ちようなのだ。

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谷口 友妃

たにぐち ゆき

幼少期に父を亡くしシングルマザーの家庭で育つ。心臓病の母との生活で感じた社会の歪みや、働く意味を求めて天職探しをした経験などから「仕事と生きがい」、「幸せな社会のつくり方」などのテーマに関心を持つ。2014年から執筆業を始め、多様な業界で働く人を紹介する社内報の巻頭記事や医療情報の取材記事、介護問題を扱う著名人の連載インタビュー企画などを担当。過去に取材した人の数は2000人以上にのぼる。読売新聞オンライン、みんなの介護「賢人論。」などに記事を執筆。

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