韓流ドラマと黒人音楽に見る家族のカタチ【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第21回
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第21回
■叶姉妹も阿佐ヶ谷姉妹も姉妹ではない
子供の頃の少しせつない思い出がある。甲府市にある岡島というデパートで年末の福引があった。私が3等を当てると、店員は大きな音でベルを鳴らした。そして、岡島の包装紙でラッピングされた大きな箱を渡された。
ずっしりと重かったので、何が入っているのかとわくわくした。家族と一緒に車で自宅に戻り、さっそく包装紙をはがした。中味は粉の洗剤だった。当時の洗剤は今と違って、無暗に大きかった。それを見て、当時存命中の祖母が「あら、まあ」と言った。私は気まずい雰囲気になるのが嫌で、そっと目を逸らした。
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中学一年生のときの同級生に木村というやつがいた。そいつの家でファミコンをしていると、奥の暗い部屋から母親がぼさぼさの頭でネグリジェを着たまま出てくる。いつもそうなので、日中ずっとゴロゴロしているのだろう。それより衝撃を受けたのが母親の名前である。木村家ではチワワを飼っていたが、チワワの名前はエミ、母親の名前はミミだった。普通、逆だろ。
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社会の最小の単位は家族であると言われてきたが、最近は個人であると言う人もいる。しかし、マフィアやヤクザの世界では家族を重視する。黒人音楽は家族兄弟のバンドが多い。ジャクソン5、JB’s、アイズレー・ブラザーズ、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ステイプル・シンガーズ、エモーションズ、ネヴィル・ブラザーズ、クール&ザ・ギャング……。枚挙に暇はない。一方、日本ではぴんから兄弟とこまどり姉妹くらいしか思いつかない。叶姉妹や阿佐ヶ谷姉妹は姉妹ではないし、パール兄弟も兄弟ではない。
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日本人はもっと家族で音楽活動をすべきではないか。私の母は大所帯のバンドでマンドラ(マンドラ・テノーレ)を弾いている。マンドラとはマンドリンよりも大きい、低音域を担当する弦楽器である。彼女は韓流ドラマが好きで、私は以前は「なぜあんなものを見ているんだろう?」と疑問に思っていた。しかし、アマゾンプライムビデオに加入してからは、韓流ドラマを見るようになった。そこで頻繁に登場するテーマが「家族」である。そこでは、年老いた母親が成人した娘に対し「稼ぎが少ない」とか「金持ちと結婚しろ」と罵倒したりする。『ボーイフレンド』というドラマは、30半ばの女社長と29歳の若い社員の恋愛の話だが、母親が息子の恋愛にずっと干渉してくる。
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若手俳優のチョン・ヘインが、ニューヨークを旅する動画があった。エンパイア・ステート・ビルの展望台で、ヘインは「こんな感動的な夜景を一人で見るのはもったいない」と言って、韓国にいる母親に電話をかける。このあたりの感覚は日本とかなり違う。
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ペ・ヨンジュンは実業家に転身し、ハワイに移住、家族との生活を優先させているとのこと。
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スライ・ストーンも「Family Affair」で歌っている。
Mom loves the both of them
You see, it’s in the blood
Both kids are good to mom
Blood’s thicker than the mud
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血は水よりも泥よりも濃い。
文:適菜収
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