『太陽』もいいけど『QA』もね!【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」26冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」26冊目
同じ平凡社でもうひとつ、好きだったのになくなってしまった雑誌がある。1984年創刊の『QA』だ。『太陽』と違って、こちらはぐっと庶民的。タイトルが示すとおり、世の中のさまざまな疑問に取材で答える、雑学&ルポをメインとした雑誌である。
創刊号(1984年12月号)から1985年12月号まではB5判・平綴じで、安野光雅が題字・表紙イラストを担当。その頃はまだ文芸誌っぽさもあったが、1986年1月号で中綴じになりタイトルロゴや誌面デザインをリニューアル、表紙イラストも原田治(1990年1月号からは加藤裕将)にバトンタッチして、一段とカジュアルな感じになった。
私が同誌を買い始めたのは、『太陽』と同じく編集の仕事を始めてからで、手元にある一番古い号は1988年5月号だった。特集は「トイレ大ウンチク学」。巻頭カラーでいきなり「荒俣宏の帝都トイレツアー」と題して、シャーロック・ホームズのコスプレ姿の荒俣宏が都内各所のトイレやメーカーのショールームを巡る。荒俣宏にこんなヨゴレ仕事(?)をさせられるのは、さすが平凡社というべきか。

TOTOとINAXの社員にトイレライフについて聞いた「直撃トイレ・アンケート」では、〈1日に何回ウンチをしますか?〉〈ウンチ1回の所要時間は?〉〈ウンチの前に、オナラをしますか?〉〈合計何回拭きますか?〉〈男性にうかがいます。洋式トイレのとき、ポコチンはどうやって押さえますか?〉といった遠慮会釈ない質問が乱れ飛ぶ。
〈ウンチのとき、温水洗浄便座を使いますか?〉という質問に、男性10%、女性12%が「使わない」と回答しているのは、トイレメーカー社員としていかがなものか。INAXは男性24人・女性16人が回答しているのに対して、TOTOは男性24人のみで女性からの回答がゼロだったというのは会社側の配慮なのか。
ほかにも世界のトイレ風土記から、トイレの歴史、最新トイレカタログ、特殊な職場環境(宇宙飛行士、消防士、南極観測隊、プロ野球審判、登山家など)のトイレ事情、トイレに関する統計、し尿処理の現状ルポ、トイレ関連本ガイドまで、トイレ尽くしの誌面には感動すら覚える。欄外に足で集めたトイレの落書き傑作選が載っているのも念入りだ。
基本的には、そういったボリューム感ある特集と、読者からの疑問に答えるQ&Aコーナー、各種連載の3本柱で構成されている。
特集テーマとしては「花ざかりのパンツ」(1988年8月号)、「活字中毒のすすめ」(同10月号)、「成り上がりのススメ」(1989年5月号)、「本日も健康なり!?」(1990年3月号)、「ニセ物語」(同8月号)、「悪役」(同12月号)、「ワイセツの研究」(1991年7月号)といったやわらかめのものだけでなく、「原発 死ぬのはワシらだ!」(1988年7月号)、「戦争のジョーシキ」(1991年6月号)、「自衛隊が必要なこれだけの理由(ワケ)」(1993年2月号)など硬めのものもあった。やわらか特集の号でも、特別企画として「昔、ベトナムで戦争があった!」「北方領土を返して欲しい本当の理由(わけ)」「憲法第九条の解釈はこう変わった!」といった真面目なネタも扱う。こう見えて、案外硬派なのである。
連載には「緊Qインタビュー この人に聞け!」「よみがえれ!TVヒーロー」、いろんな日本一記録を持つ人が登場する「I’M A CHAMPION!」など長く続いた企画のほか、原律子、荒俣宏、矢貫隆、高橋秀実らの連載もあり、単行本化されたものも多い。雑多な時事ネタに加えて山口文憲、永井明、井筒和幸、小田嶋隆らが執筆するコラムコーナー「パラノスコープ」も読みごたえがあった。

